婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

「ケイト、今は武術の時間ではありませんよ。大人しく座って続きをおやりなさい」

 エルザの厳しめの注意が飛ぶとケイトはピタッと動きを止めた後、しゅんと肩を落としました。 

「すみません」

 すごすごと歩いてくると自分の席に落ち着いたケイト。

「ケイト、一緒に頑張りましょうね」

「はい。すっごい苦手なんですけど、頑張ってみます」

 ケイトはもう一度布を手に取ると針を取り刺し始めました。

 レイ様の瞳を連想させる紫色の菫の花。
 ハンカチに刺繍をしてプレゼントしようと思っていますが、もう少しかかりそう。レイ様の喜ぶ姿を想像して、心を込めて一針一針刺していきました。

「ちょっと、休憩に致しましょうか?」

 刺繍に没頭しているとエルザの声がして、皆が頷くとお茶の準備開始です。
 喜々として素早く席を立ったのはケイト。
 解放されたとばかりに、いつもよりもテキパキと動く彼女の姿に思わず笑みが零れてしまいました。きっと、動いている方が性に合っているのでしょう。

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