囚われの令嬢と仮面の男
Prologue

 細くひらいた視界のなかに、低く見慣れない天井がうつった。ぼんやりとした意識で、ここがどこなのかを把握しようとするが、うまくいかない。

 石造りの壁に板張りの床と天井。室内であることは分かる。

 部屋の四隅には蝋燭(ろうそく)を立てた燭台(しょくだい)があり、部屋は明るい。しかしながら、明かり取りの窓がない。

 体を起こそうとしてすぐに異変に気がついた。

 両手の自由が利かない。後ろ手にされた両腕は手首のあたりで固定され、両足も同じように縛られている。つまりは拘束されている。

「なに……?」

 さいわい猿ぐつわをされた様子はなく、ぽつりと疑問がこぼれた。

 ギシ、とどこかで板がきしむような乾いた音が鳴る。誰かが立ちあがる気配とこちらへの足音。

 私は寝具らしき場所に横たわったまま、その人物を静かに見上げ、大きく目を開いた。

「お目覚めかな。マリーン・ラ・ミューレン嬢」

 ひっ、と短い悲鳴が口からこぼれた。

 ひとことで言って異常者。子供のころに読んだ絵本に出てくる悪魔みたいだ。その最たる理由が、彼のつけている仮面と黒いフードの組み合わせにあった。
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