囚われの令嬢と仮面の男
 仕方なく別の場所を探そうと立ち上がった。

 床へ敷き詰められた絨毯を見つめ、不自然な形で捲れ上がったりはしていないかと考えていたとき。「姉さんっ」とアレックスがじゃっかん慌てた声を出した。

 銃が見つかったのかもしれない。そう期待し、心音は不規則になるも、アレックスはさっき見つけた紙を開いて見ていた。

「ちょっと、銃以外ならお父様の私物には、」

「これ"髪の毛"だよ、"人の髪っ"!」

「……え?」

 アレックスの視線の先に、確かにそのものだと思われる髪の束が置かれていた。細い栗色の毛が綺麗に折り畳まれている。見るからにロングヘアだ。

「いったい、だれの……」

 そう呟くと同時に、普段から長く伸ばしている私の髪が、ハラリと肩から滑り落ちた。

「姉さんの髪によく似ている」

 アレックスは私の髪の、栗色の毛先に触れて、怪訝に眉を寄せた。

「子供のころに、髪を切られた……とか?」

「いいえ。お父様は私が髪を切るのを嫌がっていたし、こんなに長くもなかったわ」

「じゃあ……?」

 いったいだれの髪なのか。私の目は、壁に掛かった肖像画に吸い寄せられた。

「ママのものかもしれない」

「え……」
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