囚われの令嬢と仮面の男
 椅子の上に立ち、右端から順に額縁の裏を覗いた。

「あった!」

 以前、お父様に呼ばれて書斎に入ったとき、私の目を引いた絵の裏にそれは隠されていた。鋼色の小さな鍵だ。ママとお父様と私の三人で描いてもらった絵は、やはりお父様にとって宝物なのだろう。

 鍵を掴んで椅子から降りると、面食らってポカンとする弟と目が合った。確かに令嬢が取る行動ではなかったかもしれない。

 自らの行いを恥じている余裕もなく、先ほど金属の抵抗を感じた引き出しにその鍵を差した。

 カチリ、と音を立て、難なく取っ手を引いた。

「アレックス、ちょっと来て?」

 弟を手招きで呼んで、ふたりして紙に包まれたそれを眺めた。

 引き出しを開けて見た瞬間は、お父様の拳銃が包まれているのだと思い込んだけれど。よくよく見てみると、紙の中身に硬さを感じない。

「これが……銃?」

 アレックスが手を伸ばし、問題の物を掴んだ。クシャ、と握られた途端に紙の形状はしぼみ、やはり銃の外観ではないと思った。

「空振りね」
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