囚われの令嬢と仮面の男
「俺はキミを愛してる。生涯で妻にしたいと思ったのは、マリーンだけだ。だから……これからの人生もマリーンだけを愛し続けたい」

 彼の口へリンゴを運ぼうとした手が空中で止まる。彼なりの愛の言葉が、変にくすぐったかった。

「ふふっ」と吹き出したあと、そのまま彼にリンゴを食べさせた。

「あなたの想いを止める人なんて、だれもいないわ。存分に愛してくれたら……私もその愛をお返しするだけ」

 エイブラムは私を見つめたまま、コクンと頷いた。

「ご両親へ、改めてご挨拶をさせていただくわね?」

 言いながら口角を持ち上げると、エイブラムに腕を引かれ、ギュッと抱きしめられた。彼の体温に心地よい痛みが走る。

 手にしたフォークを空中で手放し、私も彼を抱きしめた。

 至近距離で目が合い、自然とお互いの唇が近づいた。

 ……愛してる。

 目を閉じながら、エイブラムへの想いの丈を長い口付けで伝えた。

 *


「父と子と聖霊の御名によって、アーメン」

 組んだ両手の先に、十字架の描かれた白い墓石があり、私はふぅ、と息をついた。供えた白い菊の花弁が風に煽られて揺れている。

「大丈夫か、マリーン」
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