囚われの令嬢と仮面の男
 何日ぶりだろう。十日は会っていなかったはずだけど、イブが変わらず元気そうで嬉しかった。

「マリーンがあそこを通りかかってくれてよかった。ていうか、あの場所にはよく来るのか? 花も何もないけど」

 街中をイブと歩きながら、私はううん、と首を振る。

「普段はお庭の花壇ばかりで、イブがママのブローチを拾ってくれた日に入ったのが初めてよ? それからはあそこが外へ出られる唯一の場所だと思って……実はわたしも通路をつくろうと考えていたの」

「え、そうなんだ?」

「うん。だからありがとう」

 あいにく持ち合わせてはいなかったが、生垣のそばに私はハサミを隠していた。

「あの場所は裏庭って呼ぶらしいんだけど。あそこにも花壇があれば花を見に行くふりをして、通路をつくれるのにって思ってたのよね。だからちょうど良かった」

 イブと出会ったころは、裏庭にはまだ花壇の存在がなく、かくれんぼをするという口実がなければ、わざわざ立ち入らないような場所だった。

 屋敷の玄関(エントランス)から正門までの広い前庭には、色とりどりの花が植えられていたけれど、お客様が通らない裏庭は、花壇(それ)が必要とされていなかった。
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