彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。
リビングというよりも茶の間という言い方があっている和室に置かれている木製のローテーブルにはカセットコンロが置かれている。

「カセットボンベが無いな、コンビニで買ってくるよ。悪いが準備を頼んでいいか?鍋とか棚の中にあると思うんだ」

「わかりました。物色してみます」

課長が出て行ってから、シンクの下の棚を開けてみると奥に新聞に包まれたものがありそれを手に取るとずっしりと重い。
サイズからしてビンゴだと思うんだけど。ガサガサと新聞を開くと鉄の丸い鍋が見えた。
他にも色々とみていると、鍋の種類も多く炊き出しに使えそうな金色の大型の鍋や蒸し器なんかもある。
何となく懐かしい感じがする。子供の頃祖父母の家に行った時の感覚だ。

食器の種類とかも多いし、課長の実家とかなのかしら?

課長が帰ってくるまでに準備を進めておく為、慌てて必要な食器を取り出して買ってきた長ネギ、春菊などを切り、白滝や焼き豆腐と一緒に大皿に盛り付ける。
雪平鍋にお酒、みりん、醤油と砂糖を入れて割下を作る。
購入した牛肉は食べたことのない見事な霜降りで全体に白っぽい。
年に一度、冬のボーナスで海外産の赤い肉を母と朱夏と三人で食べていた。
今年はきっと三人で鍋を囲むことはない。
朱夏が悠也と結婚したら、この苦い思いを持ち続けなくてはいけないんだろうか。
こんな気持ちはもう捨ててしまいたいのに。

「どうした?」

振り向くとカセットボンベを手にした課長が立っていた。
課長は、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「簡単に忘れることはできないと思うが、ゆっくりでいい。涙が枯れるとかいうが、実際は枯れることなんてないから泣きたいだけないて、腹が減ったら美味いもんでも食べてあとは時間にまかせろ」

何でいきなりそんなことを言われたのかと思ったら、知らぬ間に涙が溢れていた。

本当だ、涙は枯れたりしないんだ。

「大丈夫です。この涙は、初めてみるすごい肉に感動しただけです」

「ははは、そうか、早とちりしてすまんな。早速食おうか」
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