彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。
<君の隣にいたい〜昌希side〜>
いったいどのタイミングで言えばいいのかわからない。
こればかりは優に聞いても答えは出ないだろう。

多摩動物園は思いのほか広かった。
半分も見れてないのに体力の限界が来たのか、ギフトショップでプレゼントしたコアラのぬいぐるみを膝に乗せたまま助手席で熟睡している。

どこかで食事でも思ったが、こんなに気持ちよさそうに眠っている彩春を起こすのは可哀想だからそのまま中央道に入り自宅に向かっていると、助手席から「ごめん」と控えめな声が聞こえて来た。

「運転してもらっているのに爆睡してたよね」

「そんなことを気にしなくていいよ」

「競馬場は?」

「残念ながら通り過ぎたよ」

「そっか」

「起きたのならどこかでご飯を食べようか」

「うん」

高速を降りて少し走ったところにあるイタリアンレストランに入る。

海鮮のパスタやピッツア、サラダを注文して二人でシェアをしながら食べる。
彩春は先ほどまでいた動物園の話を楽しそうにしているが、まったく話が入ってこない。
しかも、汗が出てくる。

「昌希さん?大丈夫」

心配されるほどヤバい感じなんだろうか?
「全然、大丈夫」

「あの、私が帰りは運転しようか?」

運転を提案している割に彩春の目が泳いでいる。これは、絶対に運転させてはいけないやつだ。

「運転するの?」

「えっと、マテリアルに入社するときに取ったから6年前に教習所で運転しただけかな」

ブフッ

俺が噴き出したことで彩春は頬を膨らませている。

「ごめん、本当に大丈夫。おかげで勢いがついたよ」

いつ出せばいいのかずっとタイミングをはかって、ジャケットのポケットに入れっぱなしだったものを取り出した。

「付き合い始めてからはまだ日が浅いと思われるかもしれないが、ずっと彩春を思っていたんだ。結婚してほしい」

流行に左右されない一粒ダイヤのソリテールのリングを彩春の前に置いた。

彩春は一瞬固まってから下を向いてしまった。

ダメなのか

「彩春?俺とは結婚は無理?」

今度は首を横に振って否定をしているように見えるが、その否定は結婚したくないことの否定なのか、俺に対しての否定なのかわからない。
結婚を否定された場合は、指輪はどんなふうに回収すればいいんだろう。
嫌なことばかり想像してしまう。

「違うの」
「本当はすごく嬉しい」

え?

「ずっと一緒にいたい」
「だけど、きっと私の家族が迷惑をかけてしまう、昌希さんの家族とうちの家族では釣り合いが取れなさすぎて、それにうちの家族って変だし」

「もちろん家族との関係も必要だと思うけど、1番重要なのは彩春の気持ちなんだ、それに俺に問題を解決する能力が無いって思ってる?」

首を振りながら「思ってない」と呟く。

「もう一度言うよ。俺と結婚してください」

今度は彩春はしっかりと頷いて「はい」と答えた。

彩春の左手をとると薬指にリングをはめると指の付け根までしっかりと入っていった。

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