桜が咲く前に



「ところであのお友達は誰?バイトで知り合ったの?」



「あ、友達一人じゃなくて、二人です」



「はあ?」





この嫉妬は、仲の良い後輩が取られちゃいそうだから?それとも…



「じゃあね」



腕が緩んですぐ、千紘先輩は私の後ろにあったスイッチを押した。明るくなった玄関で見たのは無表情の千紘先輩。




…彼の感情はどこにいってしまったのだろう。





暗闇で見た苦しそうな顔は、抱きしめられた腕は、夢だったみたいに思えた。




「…この状況でバイバイ言える先輩よくわかりません」




「妃依が頑張ってること無駄にしたくないからね。すぐ鍵閉めろよ、おやすみ」





バタン。




……え?



え、え…頑張ってること…?




…もしかして、私が言おうとしてること分かってるの?そんな口ぶりだったよね?





「…はあ」





バイト用のカバンはいつの間にか床に落ちていた。それを拾う余裕もなく靴も脱がないままその場にしゃがみこむ。





触れられたところの熱と、甘くて優しい匂いだけ残して帰るのは、本当にずるい。


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