成人女性
 「ハウステンボスに行きたいそうでどの電車に乗れば良いかと聞かれているみたいです」
 駅員は目先にあった電光掲示板を見て、電車の便を確かめ、
 「ハウステンボス行きは、次に1番ホームに来る電車ですね」
 と言って人差し指を出した。
 「向こうの1番線に来る電車に乗ってください」
 私がそう言うと彼女達も納得したようで、
 「ありがとう、あなた韓国語上手ね」
 と言ってくださって、1番ホームへと早足で歩いて行った。
 駅員が、
 「助かりました」
 と一礼してくださったところで学校へ行く電車が到着し、通勤のサラリーマンや通学の高校生がゾロゾロと電車を降りてゆき、私は彼らと入れ替わるように乗り込んだ。
 その日はどこか良い気分であった。

 困っている人がいるとどうしても助けたくなってしまうたちである。
 善意などという格好付けたものではないが、私が困っている人の立場であったときに助けてくれる方がいると安心するだろうという安易な予測で人助けをしてしまうのだ。
 駅の件に関しては、私にとって趣味で勉強していた外国語が初めて人様の役に立った瞬間であり、非常に嬉しい思い出である。
 韓国語を学び始めた理由は韓流ブームである。
 中学生の頃の私は韓流アイドルに凝っていたので、彼らの話していることや歌っていることを理解したくて書店で初心者向けの本を買い暇さえあれば読み(ふけ)っていた。
 そうして気がつけばテレビ番組を見たり、小説を読んだり現地の人と話したりできるほどに上達し、辞書を引きながらであれば新聞も読むことができるようになっていた。
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