★.:* ◌𓐍𓈒 LAST シンデレラ 𓈒𓐍◌ *:.★~挙式前夜に運命の出逢い~
 山頂にそびえ立つ市のシンボルであるこの城は、戦国時代には歴史の表舞台に度々登場する難攻不落の城である。

 日没を経て幻想的な薄暮時の今、市街地から見上げればライトアップされ、白銀に輝く姿が空中に浮かび上がっているであろう。

 城の少し下方には、展望台、レストラン、リス村があり、休日は子供連れの客で賑わうハイキングコースであるが、ロープウェイなら僅か数分で山頂駅に辿り着ける。

 何より私の大好きな標高333メートルの天守閣からは、360度の景色を楽しめ、美しく煌めく夜景スポットとして有名である。

 そして幼少期から何度も母とハイキングした大切な思い出の場所でもある。

 低賃金で何10年もパートを掛け持ちして私を育ててくれた母は、1年前についに体を壊し、アパートから徒歩10分の総合医療センターに入院を余儀なくされた。

 優しく気丈な母は、今も私を第一に考え、毎晩顔を見せる度に明るい笑顔で迎えてくれる。

 そしてお決まりのように『たまには、友達と食事に行ったり飲み会に参加してきて』『いい加減、彼氏作って20代謳歌しなさいよ』と言ってくる。

 そんな母にいつも舌を出し、1日の平凡な出来事を聞かせるのが日課となっていた。

 本音は、出来るならばそうしたい。銀行の同僚とランチしたり休日デートを楽しんだりしたい、でもとてもそんな余裕はない。

 この後は、コンビニでのバイトだし銀行、病院、バイト、自宅の4パターン生活のどこに出逢いがあるやら……。

 しかし事情を知る優しい店長は、いつも内緒で廃棄の商品をくれて節約になるし、バイト仲間も家庭菜園の野菜を分けてくれて心から感謝している。

 でも正直、心身共に限界を感じていた私は、1カ月前ある一大決心をした。私は、明日結婚する。大切な母を助ける為、初対面の人と結婚する。

 大きな溜息を吐き、天守閣の端で南方に拡がる星屑のような夜景を1人寂しく見下ろしていると、胸に秘めた悲しみが次々に溢れ出してきた。

 シンデレラストーリーなんて幻想と誰よりわかっているが、もし1つだけ願いが叶うなら……。

 どうか私をラストシンデレラにして下さい。

 ひっそり泣きながら淡い星に願いを放つ。まだ完全に受け入れられない現実を、大好きなこの場所で静かに受け入れられたら……。

 1人静かに涙する私に気づいた数メートル先の若いカップルが、少し離れた所で「失恋?」「痛ーい」と口にした時、長身の男性が痛い女から約1メートル離れて立ち止まり2人の視線を塞いだ。

ホッとした直後、若い2人が逃げるような気配にふと視線を向けると、男性は私に背を向け両腕を組みプチ溜息を漏らした。

 ……もしかして盾になってくれた?

 おぼろげにその背中を見ていると(うかが)う様にゆっくり振り返り、目が合うとすぐに無言で離れて行った。

 そして手摺の端で何もなかったように夜景を見つめる姿につい笑みをこぼすと、チラ見した彼も恥ずかしげに笑った。

 ……こんなに品良く洗練された雰囲気の男性初めて。

 30代半ばくらい?

 知的なメガネ男子でスラり長身、おでこを全開にして前髪をかき上げ横に流した色気抜群な短い黒髪ヘアがとても似合う。

 高級そうなジャケットに身を包んだ爽やかイケメンで、目尻に皺が寄る柔らかな笑みに最高に癒され見惚れた。
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