婚約者の執愛
『い、嫌!!!離して!!』

バッと突き飛ばす、母親。
その姿に、律希は言い様のない絶望を感じた。

律希はただ、母親と仲良く話がしたかっただけ。
自分に笑いかけてほしかっただけ。

昔のように、母親の笑顔が見たかっただけなのだ。

確かにマザコンだが、母親は母親だ。
変な意味はないし、母親とどうかなりたいなんて思っていない。

律希だって、寂しい思いをしていた━━━━━━

父親は仕事ばかりで、ほぼ家にいない。
母親は、浮気でいつも家を開けていた。

これでも幼い頃は、とても素敵な家族だった。
両親(特に母親)は、律希を寵愛し可愛がっていた。
『律希は、いい子ね!』
そう口ぐせのように言って、律希は怒られたことがなかった。
律希は器用な人間で、何をしても完璧にこなし両親の自慢の息子だったから。

でもいつの頃からか少しずつほころびが出てきて、家庭内が冷たく凍っていったのだ。


そして大好きな母親の拒絶に、律希は壊れてしまった━━━━━━━


『母さん、僕は、それでも母さんが大好きだよ。
でも、僕だって孤独なの。
母さんまで、僕を顧みないなら………』

『りつ…き…?』

『そんな母親なんて……いらねぇよ━━━━━』
そう言って律希は、母親を殺したのた。

母親が最期に見た息子は………
恐ろしい悪魔その物だった━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━━━━
「あ……そう言えば━━━━
舞凛様、奥様に似てるかも?」
御堂は、俊太郎の死体を前にまたポツリと呟いた。

外見は正直、舞凛と律希の母親では正反対なくらい容姿に差がある。
しかし、周りを包む空気が柔らかくて優しいのはそっくりだ。

律希は舞凛に出逢った時、瞬間的に舞凛と母親を重ねたのかもしれない。


そして律希も、御堂と同じことを考えていた。
別の部下にマンションに送ってもらい、真っ直ぐバスルームに向かった、律希。

頭からシャワーを浴びながら、自分の手を見つめていた。

『律…希……り、つき…は、いい子……
ごめ、んね…私、が悪かっ…たわ……
…………………私も…大好、き…よ……』

母親を絞め殺した時、最期に律希を見つめながら言った言葉だ。

「母さんの首、細くて綺麗だったなぁー」
呟く律希。
そして、舞凛の首に手をかけた時の事を思い出す。
「舞凛の首も綺麗だった…
………………フフ…やっぱ、似てる……!舞凛と母さん」

益々狂っていく律希。

少しずつ、少しずつ舞凛を呑み込んでいく━━━━━━
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