婚約者の執愛
愛玩
「舞凛。おはよ!」
「おはようございます、律希様。
好き……律希様…大好き……」

稲田は、何とか命は取り留めた。
しかし誓約書を書かされ、治療費などは全て持つ代わりに一切他言しないこと、二度と舞凛の前に現れないことを約束させられた。

もし、この誓約を破れば問答無用で“死”が待っている。

舞凛は稲田の一件から、人形のように律希に依存するようになった。

そして呪文のように“大好き”を繰り返す。


「起きようか?」
「はい。律希様、抱っこ……!」
「うん!いいよ!」
嬉しそうに舞凛を抱き上げた。

「舞凛、痩せた?」
「そうですか?」
「うん。なんか、軽くなった。
元々軽かったけど……更に軽くなった」

そして律希が作った朝食を、舞凛に食べさせる。
それから律希も朝食を食べ、舞凛の服を選んで持ってきて着替えさせた。

「はい、舞凛。
バンザーイ!
…………フフ…ほんと、可愛い!」

律希は本当に嬉しそうに、幸せそうに舞凛の世話をする。

そして大学まで連れて行き、講義が始まるギリギリまで車で律希にべったりくっつき、講義が始まってからは山野から片時も離れずべったりくっつく。

終了後は山野がマンションに送り届け、律希が帰って来るまでひたすらソファでボーッとして待つのだ。
(その間、山野は舞凛の世話をする)



「舞凛様、目が死んでる」
退社後、律希をマンションに送り届けて帰ろうとする御堂に、山野が声をかけてきた。

「そうだな。まさに、律希様の愛玩人形だな」

「人って、本当に人形になるんだね」

「あぁ…」

「まさか、ここまでなるなんて……」

「俺も、びっくりした。
あまりにも、予想外で……」

「これから、二人はどうなるのかな?」


「━━━━━わからない。
確かなのは……律希様の舞凛様への“想いだけ”は、純愛だってこと。
ただ…あまりにも狂いすぎてて、普通では理解不能だというだけ」

「そう…ね…」


「でも、誰も……律希様を止めることはできない」
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