赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました


薄暗いウォークインクローゼットの中。ダウンライトの明かりを背にした匡さんに見下ろされ、その近距離に思わず後ずさると、すぐにネクタイケースが置いてある棚に背中がぶつかった。

ゆっくりとした動作で私の顎をすくった匡さんが、じっと見つめてくる。

「俺は、〝あの親子は一時的な感情で動くから何をするかわからない〟と言ったはずだが」
「は、はい」

鼻先が触れる近さから問われ、コクコクと頷きながらうつむこうとした。
でも、うつむききる前に、匡さんの指にぐっと顔を持ち上げられ、強制的に目を合わせられる。

恥ずかしくて堪らなくて、自然と眉が下がり目に涙が浮かぶ。
そんな私を見た匡さんは黙ったまま距離を埋め、唇を重ねた。

〝いってらっしゃい〟のタイミングと、ベッドの上以外での珍しいキスにうろたえているうちに、角度を変えた匡さんが私の唇を親指で割る。

入り込んできた舌に体が跳ねると、衝撃で後ろにあるネクタイケースがガタッと音を立てた。

「ん……っ」

どうしてキスされているのかわからないまま、でも、拒否するなんてできなくて目を閉じる。

私よりも少し冷たい舌が咥内を撫で私の舌に重なると、ぞくぞくした甘い感覚が生まれ頭を痺れさせる。

いつもこういうキスをされるのはベッドの上で、すでに横になっているか、それかすぐに押し倒されるため、こうして立ったままするのは初めてで支えるのが自分の足だけというのがひどく心許ない。

私の腰を片手で力強く抱き寄せた匡さんが、もっと深く唇を重ねてくるので、与えられる感覚に自然と肩がすくんでいた。


< 102 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop