赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
五十歳前後に見える男性には、見覚えがある気がした。
見覚え……というよりも、もっと私の中に強烈に残っている気がするのに、なぜか記憶が見つけられない。
この人に繋がるカードがある場所までわかるのに、そこにぎりぎりで手が届かなくて表に返せないような、もどかしい気持ちになった。
心臓がやけに煩く鳴るので、それを不思議に思っていると、男性が笑顔を向けた。
「美織ちゃんだよね?」
「……そうですが」
掴まれたままの腕が痛い。そんなに力を込めて掴まれているわけではないと頭ではわかるのに、なぜか痛いと感じていた。
「よかった。あれからどうしているのかずっと心配してたんだ。元気そうで安心したよ」
人のいい微笑みに、心拍数がどんどん上がっていく。
今までの態度を見てもこの男性におかしな点なんてない。それでも、どうしてか心は怖いと感じていて、腕は痛いままだ。
「あの頃は俺もどうかしてたんだ。疲れきっていたって表現が正しいかな。それでも生活もあるから必死で……」
ペラペラと話す男性の声に血が引いていくのを感じた。
理由はわからないけれど、体だけがこの人を怖がりどんどん追い詰められていく。
自分の体と頭が別々の反応を示しているのが言い表せないくらいに気持ち悪くて、とりあえず腕を離してもらうために口を開こうとした時。
「――失礼ですが、彼女になにか」
横から伸びてきた手が男性の手を剥がし、そのまま私の肩を抱き寄せた。