ママの手料理 Ⅲ
「最高!ティアラを盗むのも楽しみだけど、俺としては航海が覚醒するのを見るのも楽しみだからよろしくね」


航海が覚醒さえすれば、例えアメリカの大男でも彼には敵わないだろう。


笑いながらそう言うと、隣を歩くサイコパスの足がぴたりと止まった。


ん?、と思いながら振り返ると、




「……大也さん」


彼は真っ直ぐに俺の名前を呼びながら、ゆっくりと色覚調整眼鏡を外した。


久しぶりに見るその瞳は、太陽の光のお陰で綺麗な薄茶色に輝いていて。


俺が見ているこの綺麗な青空も湖に反射する太陽の光も、周りに生い茂る木々の緑もホテルの壮観も、今の航海には白黒写真のように見えているのだろう。


「どうしたの」


そう尋ねると、彼はぎこちない笑顔を浮かべて。




「…僕も、この景色が赤に変わるの、楽しみです」


その口から零れ出たのは、殺人を待ち焦がれる怪盗としての想い。


「……あの時みたいに、殺しますから」



彼の言うあの時とは、OASISとの決戦の時の事ではない。


航海が人生で初めて覚醒し、気が狂った様に両親を殺したあの日の事だ。


「1人残らず殺しますから。慈悲なんて要らないですよね」


淡々と言葉を紡いでいく彼の目は、いつしか殺人鬼のそれに変貌していて。


「あんな気持ち悪い奴ら…人の幸せを奪っておいて、馬鹿げてます…」
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