ママの手料理 Ⅲ
あんなに鮮明に過去の事を思い出すのは久しぶりで、


(……誰か俺と人生交換してくんねーかな、)


不良として活動していた頃、1人きりになった時にふと考えていた事が蘇り、俺は堪らず胃液を吐き出した。



ずっとトイレの個室に閉じこもり、便座に顔を押し付けて何分が経過しただろうか。


流石に吐くものもなくなり、それでもまだ気分が悪くてトイレの床に座り込んでえずいていた俺は、


「……そろそろ行かないとな、」


そう呟いてゆっくりと立ち上がった。


こんなしょうもない事で皆から心配されたら面倒だし、任務に支障が出たら困る。


嘔吐した事でかなり体力を消耗したのか、立ちくらみがした。



(…行くか、)


嘔吐物を流し、何度か深呼吸をして気分を落ち着かせた俺は個室から出ようとドアを開け、


「うおっ、……」


男子トイレの入り口付近に立つ少年の姿に驚き、ふらついた。



「あ、銀河さんじゃないですか。此処に居たんですね」


俺が吐いていたのに気付いただろうか。


航海の声は相変わらず棒読みで、何を思っているのか全く読み取れない。


「…よお、」


どう反応していいか分からず、とりあえずいつもの様に片手を上げて挨拶をする。


「20分も戻って来ないから何があったのかと思いましたよ。皆さんにはトイレで大してたって言っておくので、安心して下さい」
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