ママの手料理 Ⅲ
「駄目だよ、2人で話してるでしょ。行こう」



…全く、どうして皆こうなるのだ。


彼らが何について話しているのか、どうして銀ちゃんまでもが航海の様に能面じみた顔になっているのか分からないけれど、何か問題があるのなら決行日までに片付けた方がいいに決まっている。


(それに、琥珀と仁さんはいつになったら仲直りするの!?)


銀ちゃんと航海の2人組から、琥珀と仁さんの2人組へと焦点を移した私は、


「ねえ琥珀ー」


と、大也をその場に置いて、前を歩く琥珀の隣に並んだ。



「…んだよチビ」


私が琥珀の隣を歩き始めるとすぐ、左上から舌打ちと共に低い声が降ってくる。


「あのさ、昨日仁さんと喧嘩してたじゃん」


前置きも置かず、私はずかずかと本題に入っていく。


「……」


「仲直りしないの?このままじゃ、盗みにも影響でそうだよ」


彼の右腕が、意識せずとも私の肩にぶつかってくる。


「…影響なんてでねーよ」


元不良の口から出た言葉は、酷く冷たくて。


「闘うのはあいつじゃねえ、壱だ」


不機嫌そうな琥珀からは、明らかに仁さんに非があると言いたげな雰囲気が伝わってきた。


「そうだけどさ、一応謝ろうとかって…」


「謝る?俺にあいつが謝るんだろ」


琥珀は、左手で自分の髪をガシガシと掻いた。


「……何が“死ぬのを怖がってる”だよ」


エレベーターホールに辿り着き、湊さんが上行きのボタンを押したのを見ながら、琥珀は小さな声で呟いた。


「あいつが誰よりも1番臆病で怖がりなくせに、ふざけんじゃねえよクソ野郎…」



その言葉が聞こえてきた瞬間、私は悟った。


きっと、この2人の仲は修復しないまま決行日を迎えるだろう、と。
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