ママの手料理 Ⅲ
筋肉だけ無駄に付いていて、その使い道をまるで知らない。


こっちは右腕が使えないというハンデを与えてやっているのに、今の琥珀はかすり傷ひとつ負っていなくて。


「…ちげぇだろ、もっと体勢低くしねーと当たらねえよ」


わざわざ敵にアドバイスまで送りながら、琥珀は鍛え上げられた左手でその脇腹に強烈なパンチを繰り出した。


ガハッ、と、敵の口から血が飛び出す。


「汚ねーな、ほらさっさと死ね」


琥珀はその男に馬乗りになり、眉間に銃をピタリと押し当てる。


それからすぐ、敵の頭に綺麗な丸い穴が空いたのは言うまでもない。



(もっと苦しませてから死なせるのもアリだったか…)


自分の闘いぶりに反省点まで見つけ出す余裕を持ちながら、琥珀はその場を後にする。


(ん?)


しかし、すぐ近くにある部屋のドアが中途半端に開けられているのを見つけ、彼はすぐに立ち止まった。


(何だありゃ、中に誰か居るのか?)


何も気付かずに素通りしていたら、室内から銃で撃たれて死んでいたかもしれない。


(卑怯な手使いやがって、大也じゃねーんだからよ)


音を立てずにそろりそろりとその部屋に向かって歩みを進めながら、琥珀は片頬を歪めた。
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