ママの手料理 Ⅲ
その様子を眺めていた琥珀は、小さく舌打ちをして天を仰いだ。



どうやらこの男はクスリをやっていたらしく、琥珀をこの部屋に閉じ込めた直後から意思疎通が難しくなっていったのだ。


少し前から、彼はこうして銃で遊んだり弾を床に撃ったりしていて、その銃先がいつ自分に向けられるか分かったものじゃない。


そんな男の状態も相まって、琥珀は絶望的な状況に追い込まれているのであった。


手は痛いし身体は動かせない、おまけに仲間の声は聞こえない。



完全に戦意喪失した現役警察官は、ゆっくりと目を瞑った。


(…絶対死なねぇって、誓ったんだけどな)


まだ小学生だったあの頃、首に縄をつけながら必死に走って逃げていた自分の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。


あの時、家族が首吊り自殺を図ったあの日、琥珀は自分自身に誓ったのだ。


この先何があっても自分は死なない、生きてやると。



そして、


『行ってらっしゃい琥珀!気をつけてね、大好き愛してるよ!』


首に縄をつけた少年に微笑むのは、何にも染まらない白い髪を揺らしながら太陽のように笑う小さな子供。


(あいつ、俺が死んだら……)



3年前、大也が意識不明になった時の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡った。
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