ママの手料理 Ⅲ
アイドルでさえ頭を垂れる程に整った顔が、琥珀の一言によってぐにゃりと歪む。


仁さんが気分を害したら最後、彼は相手が腹を括って謝るまでは一歩も引けを取らない。


「それはこっちの台詞だ、早く壱になれよ」


「そうやって僕の可愛い弟をこき使わないでくれる?君に翻弄される壱の身にもなってみなよ」


先程まで結婚式に参列し、おめでとう!、と笑顔でジェームズさんに声を掛けていた人と仁さんが同一人物だとはとても思えない。


「そんな事知らねーよ、死ねカス」


「まーたそんな事言って、僕の渾身の演技の時はちゃっかり騙されてしょぼくれてたくせに」


(まあ、喧嘩するほど仲がいいって言うよね…)


目をギラつかせた琥珀からはいつもの口癖が飛び出し、それを聞いたナルシストは大袈裟に肩を竦めてみせる。



何だかんだ言ってあの盗みの一件の後、彼らは仲直りしたかはともかく普通に会話をするまでにはよりを戻したようだ。


とは言え、こうして口論が始まるのは以前と何ら変わりがない。



「おっ、パンケーキ届いたみたいですよ」


そうして私が年上のメンバーのいざこざを眺めていると、いつの間にか席を外した航海がドア近くに駆け寄って声を張り上げた。
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