ママの手料理 Ⅲ
怪盗フェニックスに挑む日は明後日だというのに呑気に私に性的行為を要求してくるなんて、この人の頭のネジは何処かへ行ってしまったのだろうか。


そもそも、壱さんは初めて会った日から私に向かって“ヤリたい”だの“夜俺の部屋来いよ”だの言い続けてきていて、それを私は毎回避け続けていたのだ。


それなのに、彼と同部屋になってしまったが故にこんな事に…。



「…壱さん!退いてください!シャワー!」


大きく息を吸った私がそう叫んだのと、


「おい起きろ野郎共、朝飯だ!」


私達の部屋のドアが狂った様に叩かれ、銀ちゃんの怒号が飛んできたのはほぼ同時だった。


その言葉を合図に、私達は黙って顔を見合わせて休戦状態に入る。


私がバスタオルと洋服を引っ掴んで脱衣所へ向かう中、壱さんが部屋のドアを開けて、


「うるせー馬鹿野郎、あと少しだったってのによ!」


と、目の前に居るであろう銀ちゃんに吐き捨てる声が聞こえてきた。



その後、無事シャワーを浴びた私は皆より少し遅れて食堂への道を急いでいた。


(皆、私の分残してくれてるよね…?)


私の家族には、航海と大也という名の胃袋が無限大な2人組が居るから、私の朝ご飯も食べられている可能性もなくはない。
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