花灯り
無理をしていたことに気づいたときにはもう、何もかも手遅れだった。でも母は最後までも笑顔のままで。涙が枯れ果てるまで、いつも着ていたまっしろなカーディガンを抱きしめて泣いた。泣くしか、できなかった。



その後の記憶はあやふやでよく覚えていない。


もう二度と戻れないのだとわかっているけど。それでも夢を見ては、願ってしまう弱い自分がいる。



「……あの頃に戻りたい」



母さんと過ごしたあの頃に。



貧しくても、父さんがいなくても、幸せだったあの頃に。


『――あの花、覚えてるかしら』


ふいに記憶の中で息を吹き返す。母の声がした。



母がよく描いていた絵のことだろう。こくりと頷けば、ふふっと少女のように笑い――。


夢灯花(ゆめとうか)っていってね、死者の夢を叶えてくれる花なの。淡く薄い桜色の花びらをお茶に入れて飲むと、幸せを入れるとも言われているわ』



墓の片隅に咲く夢灯花を見、ああそうか。母さんの夢は叶ったのか。



俺をここに呼んだ。そしてもうひとつの夢もきっと叶う、記憶の中で語りかけられていたやさしい夢。



『花は儚くても弱くない、いつでも人に大切なことを教えてくれる。そんな花の姿をわたしが死んでも描き続けていってね』



今はまだうまく笑えなくても、きっと前を向いていける。



花灯りに導かれながら、歩いていけるはずだとそう信じて。


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