没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「無事ではいられなかったと思います。このエメラルドは持ち主を殺そうとしていますから」

言ってしまってから怖がらせると心配したが、今まで優しげで誠実そうだったジェラールが急に悪人のようにクックと笑いだした。

「私の名はジェラール。君は?」

「オデットです」

ファーストネームで名乗られたので、オデットもそれにならう。

「可愛い名前だ。君の雰囲気によく合っている」

思わず頬を染めたがジェラールは不敵な笑みを浮かべており、その目はオデットを通り越してここにはいない誰かを見ていた。

「オデットのおかげで裏切者を見つけ出すことができた。カディオ」

「はい。即刻ヨデル伯爵を捕らえます。おそらくレオポルド派に通じているはずです」

ジェラールの命令は近侍からさらに官人へ下され、一礼した官人が慌ただしく執務室から出ていった。

大事になりそうな気配を感じてもオデットがいまいち状況をのみ込めずにいたら、近侍が冷ややかな目で説明してくれる。

王家には敵対勢力があって、それがレオポルド派だ。

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