没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
亡き夫から最後にもらった宝物なのに壊してしまったと修理を依頼してきたのは、杖をついた老婦人だった。

普段配達はしていないが歩くのが大変そうな老婦人を思いやり、ブルノは届けることにしたようだ。

オデットは人情味あるブルノの人柄が好きなので、この店で働けて幸せだと今日も思う。

カランコロンとドアベルが鳴る音を背後に聞きつつ、オデットは商品磨きに戻る。

手に取ったのは片手サイズの小さな丸い宝石箱だ。

蓋に埋め込まれているのはモルガナイトで、花形にカットされている。

モルガナイトは宝石彫刻によく使われる石で、色はピンクやオレンジ、紫がかったものもある。

濃いピンクのものが高値で取り引きされる。

この宝石箱の石は薄いピンクでインクルージョンも目立つため価値は低めで、それならばとカット職人が思い切って花形に加工したと思われる。

オデットは宝石箱のほこりや手あかを丁寧に拭き取ってにっこりする。

「とっても綺麗よ。買ってくれる人が現れなくてもがっかりしないで。あなたは素敵な宝石箱だから、いつかきっと素敵なお客様が迎えにきてくれるわ。もう少し待っていてね」

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