君との恋の物語-mutual dependence-
「    」
えっと…明日はページデザインの会議だけど、部室は題材が使うから…

うん、やっぱり。場所は学生ホールだ。

学生ホールっていうのは、私達の校舎の入り口に入ってすぐ左側にある部屋のこと。

ここには長机と椅子が向かい合わせになった列が3つ並んでいる。

学生は皆、待ち合わせに使ったり、おしゃべりしたり、私達みたいにサークルの会議に使ったり。

用途は人それぞれだけど、いつでも人が居る場所だ。

ページデザインの会議は、今回で3回目。

ここまでくると、私が用意していくことはほとんどなくて、他のグループで決まったこととかを報告するのが主な役割になっている。

今回は、昨日決まったキャラクター3人のデザインのお知らせと、既に取り上げることが決定している題材のページデザインを決めること。

ここまでこれが決まったら、一度全員でミーティングをして、いよいよ製作に入ることになっている。

私個人としては色々あったけど、全体としてはおおよそいい流れかなと思っている。

チームとしてもまとまりが出てきたし。

後は、私が自分に合ったペースをちゃんと掴めれば大丈夫でしょう。

今日はこれ以上やることはないし、バイトもないので、詩乃の部屋に遊びに行くことになっている。

詩乃も相変わらず忙しそうだけど、私が会いたいって言えば大体会ってくれる。

【ダメな時はダメって言う】詩乃は前にこう言ってくれた。

だから私も、会いたい時は素直に言うようにしている。



あーあ、なんでだろ?なんでこんなに元気ないんだろ…?

サークルだって上手く行ってるし、むしろこれからどんどん楽しくなりそうだし、彼氏とだって友達とだって上手く行ってるのに。

なんか、元気が出ない。元気だけが出ない。

…いやいやいや、しっかりしろ私!

頑張れ私!

少なくとも今日はこの後詩乃に会えるんだし!それまでは頑張れ私!





今日は詩乃は先に帰っているので、1人で学校を出て詩乃の部屋に向かう。

学校を出た途端に急に身体が軽くなった気がした。

スタスタと歩いて行く。なんだか心も軽くなった感じ!

そうだ!せっかくだから2人で一緒に食べるスイーツでも買って行こう!

記念日ってわけでもないし、今日はコンビニでもいいか。

詩乃と2人ならなんだって美味しいし!


そうこうしているうちに着いた。

インターフォンを押す。

数秒で扉が開いて、詩乃が出てきてくれた。

『おぅ、早かったな』

それもう、楽しみだったもん!




部屋に通してもらって、いつも通りベッドに座った。

詩乃が、コーヒーを淹れてくれている。そうだ!

「詩乃、コンビニスイーツ買ってきたけど一緒にどう?」

詩乃は、表情を変えずに真っ直ぐ前を向いたまま答える。

『あぁ、いいね。』

ん?なんだろ?元気ない?

「どうかした?」

『いや、なにも。今そっちに行くから。』

うん。


小さなテーブル越しに、向き合って座る。

詩乃は、さっきまでと同じ表情だった。

私の前に、コーヒーの入ったカップを置いてくれた。

『サークル活動は、どうだ?』

なんだろ?改まって。

「うん、順調だよ?」

『そうか、さぎりが言うなら本当に順調なんだろうな。活動は。』

活動は?

「うん、明日の会議が終わったら、あ、この間話した班ごとの会議ね!そしたらいよいよ全体会議で、活動方針は決まりだよ!」

言いながら、少し気が重くなっているのを感じた。なんでだろ?

『そうか。で、さぎり自身はどうなんだ?』

「ん?なにが?」

笑って見せた。つもり。…上手く笑えてたかな?

『調子だよ。この間も、体調崩したりしたろ?あれ以来、どうなんだ?』

詩乃?怒ってる?

「怒ってるの…?」

『怒ってない。心配だから、聞いてる。』

言いながらも、少し怒っている感じがする…。

「大丈夫だよ。バイトも少し減らしてもらってるし、あれ以来、大きなミスも…」

『本当か?』

…やっぱり

「怒ってるじゃない…」

私は、思わず俯いた。今は、詩乃の顔もみられない。

『さぎりが嘘をついてないなら、怒らない。本当のところはどうなんだ?』

…。

………。

答えられない。それどころか、顔もみられない。

視界が滲む。

なんで?

詩乃は怒ってないって言ってたよ?ほら、ちゃんと話しなよ、私。

ね?大丈夫だって。大丈夫。大丈夫だよ。

『…り!!』

『さぎり!!』

え?

急にぼやけた視界一杯に詩乃の顔があらわれた。

あらわれた?今まで私は何を見てたの?

なんだろ?息苦しい。

『おい、大丈夫か?』

あぁ、詩乃。詩乃の優しい声。

「…の」

え?上手く声が出ない。

「…っ」

『大丈夫だ。もう何も言わなくていいから。しばらくこうしていよう』

いつの間にか、詩乃に抱きしめられていた。

あぁ、もういいや。ここにいられるなら、もうなにもいらない。

もう、何も考えたくない。









気がつくと、私はベッドに寝かされていた。

外はもう真っ暗で、でも、ベッドに詩乃の姿はない。

どこにいるんだろ?っていうか、私はなんでここで寝てるんだろ?

今何時だろ?辺りを手探りで探してみたけど、携帯はなさそうだった。

電気つけよ。

起き上がって部屋の入り口近くまで歩いて、手探りで電気のスイッチを探す。

一気に明るくなって目が眩んだ。

薄目を開けて、少しずつならしていく。

部屋を見回すと、テーブルには詩乃が淹れてくれたコーヒーのカップもなく、詩乃本人の姿もなかった。

テーブルには、ポツンと私の携帯が置かれていて、妙に静かだった。

秒針の音だけがやけに大きく聞こえた。

時間はまだ19時くらい。

思ったより早い。もう、夜中かと思った。

詩乃?どこ?

携帯を手に取って、メールを見ると、詩乃からメールが来ていた。

【ちょっとコンビニに行ってる。すぐ戻るから】

なんだ。よかった。

後ろの方で、扉が開く音がした。

『おう、起きたのか。気分はどうだ?』

気分?うん、問題ないよ。

『悪くなさそうだな。』

うん。悪くないよ。

『大丈夫。明日には喋れるよ。』

ん?喋れる?

「っ!」

視界がブレたと思ったら、また詩乃に抱きしめられていた。

『大丈夫。無理しなくていい。コンビニだけど、美味しそうなもの買ってきたぞ。さっき買ってきてくれたデザートも、食べよう。今は、先のことは何も考えなくていい。な?』

そっか。なにも考えなくていいんだ。

ありがとう。

詩乃は、私を抱きしめたまま、ずっと髪を撫でてくれていた。


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