君との恋の物語-mutual dependence-
部屋の中で
目が覚めた時、外は真っ暗だった。

っていうか、今何時?

あれ?そもそもいつから寝てるんだろ?

寝ぼけた頭は、思うように働いてくれなかった。

無理やり体を起こす。

途端に、寝過ぎた時特有の頭痛がした。

目の奥が、鈍く痛い。

喉も乾いている。



体を起こしたまま、しばらくぼーっとしていたら、少しずつ意識がはっきりしてきた。

そうだ、今日は、午前中に詩乃とスーツを買いに行って、それからサークルの会議まで時間が…

え?今何時??

いや、大丈夫、会議にはちゃんと出た。記憶もある。

で、会議を終えて、帰ってきて、そのまま寝たんだ。

そう、昼間、詩乃と一緒に居たかったのに、【帰ったほうがいい】

と言われて、なんだか寂しくなったんだ。

それで、会議が終わって帰ってきて…

あぁ、やっぱり。

机の上には、空になった薬のパッケージだけがあった。

これは、病院でもらった頓服薬。

どうしても辛い時にだけ飲むように言われた薬だった。

私、これを飲んで寝たんだ。

かなり長い時間寝ていた上に、すごく長い夢を見てた。

あれは、今から4ヶ月くらい前…

私が、詩乃に連れられて初めて心療内科に行った時の夢だ。

夢にしては珍しく、事実とほとんど同じ内容だった。

なんで今更あの時の夢んてみたんだろ…

まぁ、いいや、考えても仕方ない。



そうだ、今何時だろう?

時計を見ると、夜中の3時過ぎだった。

あぁ、頭が痛い。

そのまままた横になった。

いいや、明日は予定ないし、朝起きてからシャワーしよ。

相変わらず頭痛はしていたけど、目を閉じたら意外にもすぐ眠れた。




翌朝9時。

自然と目が覚めたので、重い身体を引きずるようにしてシャワーを浴びに行った。

少しお腹が空いたのでリビングで簡単な朝ごはんを済ませる。

両親は揃って家にいたけど、私には特になにも言わなかった。

…両親は、私の状態に気づいてるのかなってちょっと思った。

高校生の頃は、色々なことをよく聞かれたんだけど、最近はほとんど何も聞かれない。

それは、大学生になった私の気持ちを尊重してくれてるのか、それとも…

まぁ、いいや。聞かれないなら。もう少しよくなったら話そ。



自分の部屋に戻ってきた私は、やることもないのにノートパソコンの電源を入れた。

ネットの記事をだらだら読み漁る。

なんか、やることないな。

春先だって言うのに外は結構暑そうで、外出もしたくない。

詩乃から、夜のうちにメールが来ていたので、さっき電話したんだけど、出てくれないどころか、コールすらしなかった。

忙しいのはわかるけど、電話くらい出てくれたっていいのにって、正直思った。

昨日だって、一緒に居たかったのに、【帰った方がいい】なんて言われて。

別に買い物に付き合うのは全然嫌じゃないけど、その後、一緒にいたいっていうのも、わがままになっちゃうのかな…?

詩乃が、私を気遣ってくれてるのはわかるけど、【帰った方がいい】っていう言い方をされてしまうと、私は自分がどうしたいかを言えなくなってしまう。

その言葉の裏に【俺だって一緒にいたいけど】って言う気持ちがあるような気がするから。

俺だって一緒にいたいけど、お前のために今日は帰れって…

私にとっては、これって結構残酷な言葉だ。

なんで、一緒にいることもできないの?

詩乃が忙しいからじゃないの?それを、なんで、私のせいみたいに言うの?

もういや。

考えるのもしんどい。

私は、携帯を少し遠ざけて、パソコンばっかり見ていた。

いいよ、どうせ連絡なんてこないし。



昨日あれだけ眠ったのに、まだ眠かった。

パソコンの電源は入れたまま放置して、ベッドに横になった。




起きたら、まだ外は明るかった。

時計は3時を指している。

結構寝ちゃったな。

夜眠れないかも。

別にいいか。

明日の授業は午後からだし、サークルも、特別なことはない。

寝る時につけっぱなしだったパソコンのところに行った。

今度は、ネット上の動画をだらだら見始めた。

何も考えたくなかった。

考えてしまったら、また悪い方向にだけ向いてしまう気がして怖かったから。

だから、何も考えない。

今はそれでいい。

そう思って、そう思い込んで、ただただぼーっとしていた。

夕方、夕飯の時間にはリビングに顔を出した。

両親は、さすがに少し心配そうな顔をしていたけど、やっぱり何も聞かなかった。

夕飯を食べたら、そのままお風呂に入った。

誰も文句は言わないので、すごくゆっくり浸かった。

なにもしないでいると、やっぱり考えてしまうのは、詩乃のことだった。

でも、会いたいって言っても、どうせまた私のためにって言って会ってくれないんだろうな…

結局そういうことばかり考えてしまう。

詩乃だけじゃない…恒星もよくそう言う言い方してたな…。

なんで2人ともそういう言い方するんだろ…。

あぁ、嫌なこと思い出しちゃったな。

上がろ。せっかくのお風呂なのに、このままだと嫌な気分にしかならない。


部屋に戻って、ずっと放置していた携帯を開いてみたら、電池が切れていた。

私は、充電器に繋ぐのも面倒になって、そのまま放置した。

本当、もうなにもしたくない。

学校もサークルも。

唯一会いたいと思うのは、病院の先生だけ。

先生は、私のことを一切否定しないどころ、私は悪くないって、味方になってくれるから。

診察の日じゃないけど、明日病院にいこうかな。

そんなことを考えながら、ベッドに横になった。

まだ早い時間だけど、もういいや。

パソコンの電源も切らず、明かりだけを消してまた眠ろうとした。


天井を見上げて考える。

いつだったか、こんな風にずっと部屋に籠ってたことあったな…。

あぁ、そうだ、あれは、恒星と別れた後のことだ。

なに…?今回も、私、別れるの?

フラれるの…?

いや、そんなの。やめてよ、1人にしないでよ。

もういい、誰でもいい。一緒にいて。

詩乃…?

…先生…?



1人にされると思ったら、急に震えが止まらなくなった。

奥歯がカチカチと鳴る。

部屋の外で靴の音がしているくらい、心臓の音が大きくなる。

いや、やめて。

1人はいや。

もう、あんなの嫌。

助けて。

だめ。怖い。

すぐに電気をつけて明るくした。



過呼吸になりかけていたみたいだけど、どうにかおさまった。

落ち着かなきゃ。

ちゃんと、話せば詩乃だって、きっとわかってくれる。

ちゃんと、話そう。

夜のうちは、考えは悪い方向にしか向かないって、先生が言ってた。

そうだ、その為に頓服薬をもらったんだ。

うん、あの薬なら、きっと眠れる。

明日は、ちゃんと詩乃に連絡しよう。

ごめんね。私、こんなになっちゃって。

出会った頃は、もっと元気で、こんな風に病んでなかったのに。

ごめんね。ごめんね。



薬を飲んだ私は、何故か涙が止まらなくなって、布団の中で声を殺して泣いた。

泣きながら、電源の入っていない携帯を握りしめて眠った。

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