君との恋の物語-mutual dependence-
発見

図書館に入るとすぐ、詩乃がいるのを見つけた。

詩乃は、入り口からでもよく見える棚に向かっていて、こちらに背中を向ける形で立っていた。

どうしようかと思ったけど、私はその場で踵を返すと、部室に向かった。

別に逃げる必要なんてないんだけど、なんとなく今じゃないなって思った。

それにしても、詩乃は相変わらず真面目なんだなぁ。

今日もきっと、仕事で使う為の資料を探しに来ていたんだと思う。

この1年で、教職科目で授業が一つも被らないことからどうやら教職は取らないらしいと思っていた。


部室に入ったら、祥子もいた。

長机4つで作った島の一角で、何かを読んでいた。

「祥子、お疲れ様」

私の方を見ながら祥子が答える。

『お疲れ!どうだった?就職課!』

私は、あったことをそのまま話した。

『そっか。まぁ最初はそんな感じだよね。私の時もそうだったし。』

祥子が読んでいたのは企業案内みたいだった。

祥子がすごく熱心にそれを読んでいたので、会話はここで終わりになった。

当たり前だけど、皆真剣。

そりゃそうだよね。

だって、就職先が決まらないまま卒業してしまったら…

私達、どこの誰って言えなくなっちゃうんだもんね。

居場所がないって、本当に怖いことだと思う。

だから皆、必死に就活するんだよね。

私も、頑張ろ。



図書館には行けなかったので、部室に置いていた本を読んでいると、祥子から話しかけられた。

『あ、そうだ、さぎり』

ちょっと遠慮がちに。

「ん?なに?」

『えっと、もうすぐだよね?片桐君との約束の日』

うん。

「うん、そうだね」

『私、今日片桐君に会ったよ。たまたまだけど』

え?

「そう、なんだ。」

ちょっと迷ったけど、続けた。

「実は、私も見かけたんだ。」

今度は祥子が驚く

『そうなの?話さなかったの?』

それは、まぁ。

「うん、ちょっと忙しそうだったし、正直なんて話しかけようか迷っちゃって。」

『そっか。でも、戻るつもりなんだよね?』

「それは、うん。」

祥子は、ちょっと思い切るみたいな表情で言った。

『これは、私の考えなんだけど、今回はさぎりから声をかけた方がいいと思う。』

「え?」

『片桐君、寂しそうにしてたよ。ぱっと見でわかるくらい。』

そっか。私が見かけた時には、ちょっとわからなかったな。

『もし見かけたなら、約束のこと、確認してみたら?気まずいかもしれないけど、そこは彼氏なんだし、甘えてもいいんじゃないかな?』

『気まずさとかはおいておいて、普通に話したらいいんじゃない?約束の確認だけなんだし。』

まぁ、それもそうか。

後で、また図書館に行ってみよう。仕事用の資料集めなら、しばらくはいると思うし。


祥子と一緒に部室でお昼を食べて、午後一の授業もなかった私はもう一度図書館に向かった。

途中で、詩乃がよく飲んでいた缶コーヒーを買った。

もういないかなぁ?って思いながら探してみたら、すぐに見つかった。

詩乃は、図書館の端の方の席に座って、必死に何かを書いていた。

すごい集中力で、私がすぐ近くで見ていても全然気づかなかった。

私は、その場で本を読むふりをしてしばらく待つことにした。流石に今は話しかけられない。

それに、多分もうすぐ小休止を取るだろうなって、なんとなく思っていた。


私の予想通り5分くらいしたら椅子の背もたれに体を預けて、天井を向いて目を閉じた。

今だ!って思ってスタスタと詩乃に向かって歩いて行った。

そのまま目を閉じていた詩乃のほっぺに缶コーヒーを充てた。

『うおっ』

詩乃は、びっくりして後ろに倒れそうになった。

あっぶない!ごめんね。驚かせて。



『お、おう。』

一瞬間をおいて、答えてくれた。

「久しぶり。」

なるべくいつも通りのつもりで声を掛けた。

『あぁ、なんだよ、急に。』

久しぶりすぎて、やっぱり緊張していた。

「驚かせてごめんね。図書館にきたら、見かけたからさ。」

嘘、ではないか。図書館に来たら見かけたのは本当だから。

『あぁ。』

詩乃は、まだ混乱してるのか、言葉が詰まってしまったみたい。

「頑張ってるみたいだね。」

さっきから見てたよ。相変わらずすごい集中力だね。

『まぁな。仕事だからな。』

これには小さく頷いて

「もうすぐ、だよね。」

私から切り出した。今日詩乃に会いに来たのは、この話をする為だから。

それに、距離をおいていることに変わりはないんだから、今はそんなに長く話すべきじゃないなって思った。

『そうだな』

「ちょうど1年後の日、空いてる?」

『空けてある。』

「そっか。詩乃の部屋、行ってもいい??」

『おお、いいぞ。』

よかった。ありがとう。

「良かった。じゃぁ、10時頃に行くね。はい、これ」

そう言って買ってきた缶コーヒーを置いた。

『待ってるよ。ありがとう』

私は、踵を返して歩き出した。

私こそ、ありがとうね。詩乃が頑張ってるとこ見られて良かった。

久しぶりに会った詩乃は、本当にかっこよくて、もっと一緒にいたかった。

でも、もう少しだから。

祥子の言った通り、詩乃は、寂しそうだった。

ごめんね。でも、もうすぐだからね。

これからの2週間が、1番長く感じそうだなって思った。
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