君との恋の物語-mutual dependence-
今までのこと
目覚ましよりちょっとだけ早く目が覚めた。

自分で思うより緊張しているみたい。

これってちょっと変だよね。彼氏に会いに行くだけなのに。

まぁ、でも仕方ないか。一年振りだし。

いくら彼氏だからと言っても、流石に一年振りじゃ緊張もするよね。

待ち合わせまではゆっくり準備をしても1時間以上余裕がある。

でも、暇ではない。1年間何を考えて、これからをどう過ごしていきたいか、ちゃんと伝えられるようにしたいから。

準備ができたら早めに移動して、少し考える時間を取ろう。



家を出てから詩乃の部屋までの道は、なんだか懐かしかった。

1年間長かったな、なんてちょっと思ったけど、でもこの1年は、絶対無駄じゃなかったと思ってる。

私、あの頃は本当に周りが全然見えてなくて、詩乃だけじゃなく友達にも沢山迷惑をかけちゃった。

祥子にも、由美にも、夏織にも。

3人ともそれぞれ全然違う接し方で私を助けてくれた。

基本、3人とも優しいけど、夏織だけは、最後にちゃんと私のことを叱ってくれたり、鼓舞してくれたりした。

【最後には、自分の足でしっかり立てないとだめなんだよ?】

言葉だけだとちょっと厳しく聞こえるけど、これは、夏織の優しさなんだって思えた。

というか、私がそう思えるくらいに回復するまで待っててくれたんだと思う。

ありがとね。夏織。

友達に迷惑かけてしまったり、詩乃にわがまま言って甘えてみたり、突き放してみたり。

本当、よく皆こんな酷い私を見捨てないでくれたなって今は思ってる。

1年前の私は、本当、私らしくなかった。

でも、皆のおかげで、私ここまで立ち直れたんだよって、詩乃に話したい。

待っててくれてありがとねって、伝えたい。

そう言う、なんて言うのかな?人に伝えたい気持ちをしっかり確認する1年だったと思えた。

だから全然、無駄じゃなかった。

詩乃、ありがとね。待たせてごめんね。

思い返してみたら、詩乃は、私が調子を崩し始めた頃からずっと見てくれてたんだな。

1年生の時、バイト先の変な男に絡まれて、自分ではどうしていいかわからなくて、結果何もできなくて。詩乃はそれでも助けてくれた。

それなのに、私はまた嘘をついて逃げ出した。

そんな私を唯一受け入れてくれたのが詩乃。

本当、付き合ってからずっと迷惑かけっぱなしだ。

でも、だからこそ、ちゃんと詩乃のところに帰るという形で詩乃の気持ちに答えたいと思ってる。

だって、ここまで待っててくれたのに、【これ以上は迷惑だから】とか言って私から離れてしまったら、詩乃の気持ちが全部台無しになっちゃうじゃない。

だから、私は今日、ちゃんと伝えるの。

【ただいま】って。

実質2年だもんね。

これからは、やっと対等でいられると思うんだ。

詩乃はもう出版社で仕事もしてるし、そう言う意味では先を行ってるけど、私だってサークル活動はちゃんとやってるし、学生として、誰かに恥じるような生活はしてない。

だから、これからは私は詩乃と対等に話ができると思ってる。

背伸びするとかそんなんじゃなくて。

多分、詩乃はそれを望んでる。

元々上だ下だって言うタイプじゃないし。

私が勝手に思っていただけだよなぁって、この1年ですごく感じた。

詩乃はもちろん、恒星だってきっと、私のことを下に見てなんてなかった。

むしろ、対等であろうとしてくれてた。

だからこそ、対等に怒った。ちょっと変な言い方だけど、これが1番しっくりきた。

だから私も、【自分の価値を自分で決める】のはやめた。

これ、本当全然意味がないなった思った。

だって、自分の価値なんて、誰に決められるものでもないじゃない?

だったら、そんなこと考えてないで、自分のやるべきこと、やりたいことを一生懸命やればいいの。

それができるだけで、本当に幸せなんだって思うから!


これが、私の結論。

考えがまとまってきたところで、ちょうど詩乃の部屋の前についた。

迷わずインターフォンを押す

出てきた詩乃は、ちょっと落ち着きがなかった

『お、おぉいらっしゃい』

一瞬、私時間間違えた?って思ったけど、いやそんなはずはない。

「なぁに?今の」

慌ててる詩乃がちょっと可笑しくて笑っちゃったw

『あぁ、久しぶりだな。』

詩乃もちょっと、笑ってた。

「うん。久しぶり」

『とりあえず、あがろう』

「ありがとう」

久しぶりに詩乃の部屋に入った私はびっくりした!

仕事用の資料の数がものっすごく増えていた!

「詩乃、こんなに仕事してたの?すごいね!」

キッチンの方から詩乃の声が返ってくる。

『おぉ、ここ半年くらいで結構増えてきたんだよ。』

私が、ただひたすら感心していると、詩乃がコーヒーを持ってきてくれた。

『コーヒー淹れたよ。座ろう。』

「うん、ありがとう。」

2人でテーブルを挟んで向かい合った。

詩乃は、まず私のことを聞いた。

私は正直に答えた。

病気のことも、友達のことも、サークルのことも。

すると、詩乃が唐突に話題を変えた。



『そう言えば、引っ越そうと思っている』

「え?」

何急に!?

どう言うこと?

『ごめん、言い方が悪かった。まだ内緒なんだけど、俺、出版社に就職することになったんだ』

え!?就職!?

「え!?嘘!すごいじゃん!!」

それを聞いて一気に嬉しくなった!

すごい!頑張ったんだね!

『ありがとう。まぁ、在学中は契約社員だけどな』

「えー!?在学中から働くの!?いや、まぁでも詩乃の場合は今もそんな感じか」

いつの間にか、詩乃が私の顔をじっと見ていた。

「ん?どうしたの?」

『いや、なんか、さぎりらしいなと思って。』

笑顔だった。

「なにそれ?」

『よかったな。元気になって』

ちょっと泣きそうになった。

「うん。ありがとう」

今日はいっぱい話そうね。

今までのことも、これからのことも。
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