ゆっくり、話そうか。
な、
なんてこったぁぁぁっ!
「なに?!なに?」
開けたはずがまた閉めて、こちらに後ずさりしたやよいの行動に尚太と万智が小さな悲鳴を上げた。
なぜか三人小さくしゃがんで向き合い、肩を組んでスクラムも組んでいる。
「日下部くんおってんっ、真ん前に、ドアぶつけてしもたっ」
「えぇっ」
目をまん丸くして、細い声で叫んだ万智がおろおろし始めた。
尚太はもう日下部の逆鱗に触れたのではないかと怯え、目が泳いでしまっている。
「仕切り直そ、もしかしたら日下部くんも気のせいやと思ってるかもしれんし。もっかい開けて、これが初めてですぅくらいな感じでやったら日下部くんも、あ、今回初めてやなぁってなるやん?」
「ならねぇし思わねぇよっ、どうしたんだよやよいっちっ、しっかりしろよっ」
あまりの事に気が動転しすぎのか、意味の分からないことを言うやよいが不安になった尚太がやよいの肩を大きく揺さぶった。
首の座らない子供くらいのぐにゃぐにゃさで、やよいの首がしなる。
振動がなかなかのもので、よろけてドアにもたれ掛ったやよいは何度か頭をぶつけてしまった。
すると支えになっていたはずのドアがいきなり開き、完全にもたれてしまっていたやよいはバランスを保つことが出来ず、あっけなく後ろへひっくり返る。
とんっ、と背中が掴まれ、完全に倒れる寸前、
「つかまえた」
真顔の日下部と目が合った。
やよいの顔から血の気が失せた。
腰を曲げ頭上から見下ろす形で、じっと見ている。
その少し横で、元カノさんとも視線がぶつかる。
彼女はすでに泣いていて、ポロポロ涙を流していた。
錆び付いたブリキのおもちゃと同等の軋み具合で、やよいが片手を上げてヒラヒラ振った。