ゆっくり、話そうか。
「いいなぁ、女子。気軽にバグできてなぁ」

横から椅子を引っ張って万智の隣に座った寺久保尚太が、頬杖をついてやよいを見ている。

「もちろーん、尚ちゃんにもするよぉ」

言い終わるより早く尚太に抱きつき、ぎゅうぅぅっとしている。
きゃぁぁっという女の子らしい声が可愛らしい。
説明の必要もなく、二人はもちろん付き合っている。
付き合い始めて1年は経っているのに恋する気持ちは衰えることはなく、いつもこうやってスキンシップをはかっていた。

尚太と万智の間を割くわけにもいかず、席の移動を余儀なくされたやよいが円になって座れるように並べた机の端へ座った。
ちょうど王様席という場所だ。
右隣に万智、左隣に空席、その隣には残りの二人が座っていた。
カップルではない男女だがそれなりに仲がいいらしく、早くも楽しげに話している。
 
都会のカップルはいつまでも大胆やわぁ。

万智と尚太を見つめながらすごいなぁとため息を吐いた。
最初の頃は目撃する度に面食らっていたが、徐々に慣れて今では大胆だなと感心し、天晴れと思えるようになっていた。
何なら行き着くとこまでやって振り切ってほしい、と。
田舎のカップルがどんなものかは詳しく見たわけではないが、少なくともやよいの知っているカップルは人前で、しかも教室で人目も憚らず抱きあったりはしない。

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