ゆっくり、話そうか。
同じことを同じタイミングで言い聞かせた二人はプリントを束ね、向かい合わせに座ってホチキスを握った。
感じる蒸し暑さが窓を閉めたせいでないことくらい分かっている。
息苦しさの理由も。

パチン、

パチン、

ホチキスと紙の擦れる音。
会話が無い分そう言ったものがより鮮明に聞こえる。
なんでこう普段と同じに進まないのか。
今頭の中の大部分を占めているのは間違いなくさっきの事なのに、それを気にしてる素振りを見せないやよいをこっそり盗み見る。
思春期の男女としては意識せざるを得ないさっきの事故。
あんなことがあれば10割の確率でこの状況に陥っていない。
大体は女性の方が逃げ出し、男の方が一人で作業する結果になるというのに、二人でホチキスをガチガチやっている。
一緒にいたいからなんて、やよいがそんな考えを持ち合わせていないことなど、日下部にもわかっている。

ならば何故なのか…。
予想の裏や斜め上を突いてくるやよいの言動や行動が、どういう思考回路を通過して原動力になるのか興味があるのは否定できない。
それより何より、どうしていつもまっすぐ目を逸らさずにいられるのか。
やよいに関わった日はどうにも引っ掛かるものが残りやすい。


いじめたくなるとはこういうことなのか…。

そんな考えを振り払うようにホチキスを掴み直し、強めの一打を歪んだプリントに打ち込んだ。












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