ゆっくり、話そうか。
だからといって気持ちがすっきりするわけでも、日下部を吹っ切れるわけでもない。
胸の痛みを察知する心の網目の差が、やよいと日下部とではあまりにもありすぎるのだ。
やよいにとっては特別な人とするのがキスだったから、ある意味特別な日下部とのキスは気持ちを加速させるには充分だった。

想いが通じあっていないというだけのこと。

その事実が非常に重くのし掛かっているため、日下部に会いたいような会いたくないような気持ちにさせられるのだ。
そんなだから、借りたジャージもどんな返し方をしたのかさえ覚えていない。

「あっついねぇ」

昼食後、自販機で買ったジュースを飲みながら、やよいと万智が立ち入り禁止の札を潜って屋上の階段を昇る。
屋上は陽当たりがよくて場所によっては灼熱地獄だが、日陰は冷えたコンクリートが気持ちいい。
二人で横になり、ひんやりしたコンクリートに身を預ける。
入道雲がもくもくとせりだし、真っ青な空に眩しいほどの白を描いていた。

「風通るねぇ」

「教室より暑いけど、このコンクリートの冷たいの、病みつきんなんねぇん」

二人が寝転んだ屋上の一角は旧校舎が隣にそびえているのだが、新しい校舎は横に広い造りになっていて旧校舎より低いため大きな日陰ができている。
日焼け対策をしていれば影に振ってくる紫外線には多少なら負けない。
また、若干高台に建てられたこの学校は風通しもよく、業火のような夏日でない限りは大抵は快適に過ごせた。

「男子がいたらこんなことできないよねぇ」

「んー…、そうやねぇ、出来ひんなぁ…」

言いながらネクタイを緩め、胸元のボタンを一つ開けた。
そこに買ってきたペットボトルを、クーラー代わりに乗せる。

< 97 / 210 >

この作品をシェア

pagetop