このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜



 きっと、悪魔というものが実在するなら、こうして抗えない力でもって人を誘惑するのだろう。そんな風に思ってしまう程に、踏み入れてはならないと抑止(よくし)する気持ちと、このままいっそ、絡め取られてしまいたいと思ってしまう程の耽美(たんび)なる誘惑が私を襲う。
 その得体の知れない恐怖に小さく身体を震わせると、私は目の前にいるウィリアムを見上げてコクリと小さく喉を鳴らした。


「……凄いわ、こんなに綺麗な薔薇を作ってしまうなんて。きっと大変なのでしょうね」

「そうだね……。理想の薔薇を作るのに、四年もかかってしまったからね。けど、お陰で納得のいくものができたよ」


 ウィリアムはそう言って苦笑して見せたものの、たったの四年で完成させてしまうとは、やはり彼の才能には目を見張るものがある。


「リディ。君にもいつか、この薔薇の作り方を教えてあげるよ」

「えっ? ……本当に?」

「ああ、勿論だとも。一緒に綺麗な薔薇を咲かせよう」

「……ええ、楽しみだわ!」


 いつかは終わりが来ると分かっている、この甘やかなひと時。
 それでも、私に向けてこうして未来への希望を抱かせてくれたウィリアム。その約束に心躍らせると、私は赤くなった頬を隠すかのようにして、手元の薔薇をそっと顔に近付けた。

 芳醇な果実のような甘みを含むその香りは、私の鼻腔を通して浮き立つ気持ちと混ざり合い、更に私の心を心酔させる。
 

「私の可愛いリディ──君は、本当に美しい」


 そんな言葉と共に、私の髪を(すく)うとそっと優しく口付けたウィリアム。
 そんな彼の所作を呆然と眺めながらも、その輝く程に美しい黄金色の瞳に釘付けになると、私は小さく感嘆の息を漏らしたのだった。


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