一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
 結局そのまま陽平に引きずられて、ロビー奥にある来客用ミーティングスペースで報告をすることになった。

「陽平、コーヒー」
「お。サンキュ」

 陽平がリクエストした缶コーヒーを、健斗が自販機で買って渡す。

「いくらだっけ」
「要らない。先週の店情報とか諸々のお礼」

 そう言って、椅子に座る。就業時間を過ぎているので、ミーティングスペースには二人しかいない。とはいえ会社内なのであまり込み入った話もしづらいのが、健斗にとっては逆に都合が良かった。これで下手に飲みになど行ったら、洗いざらい陽平に話すことになってしまう。

「あと今度、焼肉おごるよ」
「ってことは、上手くいったんだ」

 ニヤニヤと笑った陽平を前に、健斗は眉を寄せて首を傾げた。

「上手くいったかどうかは、まだ分からない。トライアルが始まって、相性が合うか確認する段階というか」

 金曜日の美晴との一件以来、陽平とはあえて連絡を取ってはいなかった。どこまでどう話せば良かったか分からなかったからだ。そして美晴と付き合うことになったのだが、経緯を考慮するとどうしても曖昧な言い方になってしまう。

「保護犬をもらうみたいな話になっているな」
「好きになってもらいたいけど、どうすればいいのか分からない」
「うわぁ……」

 陽平が目を見開いて、珍しい生き物を眺める表情で感嘆する。

「マジ、恋しているんだ。俺、久しぶりに見た。こういうの」
「うるさい」

 それだけ言うと缶コーヒーを飲む。思ったよりも口に残る甘さにまた眉をしかめた。

「健斗、俺なんかアドバイスとかした方がいい?」

 ニヤニヤとした笑顔のまま、陽平が尋ねる。けれどその声は柔らかく、健斗に対して真摯に向き合ってくれていることが感じられた。

「今は、いいよ」
「そうだよな」

 店やホテルの探し方ならいくらでも教えてもらいたいが、今知りたいのはそんなテクニックではない。美晴の気持ちに関することは、先ずは自分が考えて挑戦したい。メッセージ一つ送るのにも右往左往しているのが現状とはいえ、まだ親友に頼るには早すぎると健斗は思っている。

「まあ、いつでも相談に乗るからさ。なんかあったら言えよ」
「ありがとう」
「でも一つだけ。焦るなよ」
「焦る?」

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