一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「あ、」
「ぅわっ」

 ベッドからはみ出た体はそのままバランスを崩し、ドスンと音を立てて客用布団に落下した。そのマンガのような反応と光景に、美晴は思わず声を出して笑ってしまう。

「そんな焦らなくても大丈夫。なにもされていないし、していないから」
「美晴さん……」
「もう起きよう。洗濯機、借りていい?」

 一度脱いだTシャツ、しかも湾岸のバーベキュー会場で肉を焼いたあとのものを、また着直す気にはなれない。

「乾燥機ってある? いっそコインランドリーに行けばいいのか」
「いや乾燥機はないけど、今日天気がいいし、今洗濯すればすぐ乾くんじゃないかと」
「それなら洗濯物乾くまで、ここにいていい?」
「もちろんです!」

 なぜか布団の上で正座となり、こちらを見上げて力強く叫ぶ健斗に向かい、美晴は微笑んだ。



 自分の洋服の他に、ついでに客用布団のカバーなどの寝具も一緒に洗濯することになった。ほぼ使っていない客用よりも、美晴も使った健斗の寝具を洗った方が良いのではないかと勧めたのだが、それは頑なに却下された。

 洗濯機を回すと、顔を洗う。服が乾くまでは健斗から借りたTシャツとスウェット姿のままなので、化粧はまだしない。そういえば昨日の夜からずっと、美晴は化粧を落とした素顔を健斗に晒していた。今更ながら気が付いて焦るが、もうどうしようもないので開き直るしかない。

「美晴さん、ご飯にしましょう」
「はーい」

 呼ばれてダイニングへ行く。ローソファの前のテーブルには、ご飯茶碗と木椀が置かれている。その横にはインスタント味噌汁の袋が二つと、コンビニ袋。健斗は味噌汁の素をそれぞれ茶碗と木椀に入れると、お湯をかけた。

「自分の分の食器しかなくて、すみません」

 言いながら、木椀と割り箸を美晴に渡す。

「ありがとう」

 素直に受け取ると、健斗はコンビニ袋から中身をガサガサと取り出した。

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