一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「朝飯なんですが、昨日、コンビニ行ったときについでに買っときました。いきなり朝から弁当っていうのもどうかと思ったんで、おにぎり」
「おにぎり」

 色々な種類のおにぎりが六個ほど、テーブルの上に広がった。一体この個数はどういう計算で出てきたのか。これだけ買うなら家でご飯を炊けばいいのに、健斗は自炊はしないのか。そしてパンという選択肢はなかったんだな。などと色々突っ込みたいことが美晴の頭の中で渦を巻く。そんな彼女の反応を前にして、健斗がはっとした。

「買う前になに食べるか、美晴さんに聞けばよかった!」
「ううん、大丈夫」

 コンビニでは美晴が彼シャツでからかったこともあり、多分、健斗も朝食の話を振る余裕はなかったのだろう。

「冷蔵庫に入れていたから、冷たいな。レンジで温めるんで、選んでください。おにぎりの具、なんにします?」
「それじゃあ、鮭」
「ほかは? 美晴さん、昨日は途中で吐いちゃったから、胃が空っぽなはず。もっと食べないと」
「それならあと、たらこで」
「ほかは?」
「二個で十分だから」

 かいがいしく世話を焼いてくれる健斗と会話を続けながら、美晴は毎週水曜日のランチタイムを思い出していた。コンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいると、おにぎりの具を真剣に選ぶ二人のサラリーマンの会話が聞こえてきた。あれは確か七月のこと。

 三ヶ月ほど前のことなんだ。

 その時のことを思い返しながら、レンジで温めたおにぎりを頬張る。コンビニおにぎりを食べたのは久しぶりで、なぜかやけに美味しく感じられた。味噌汁もインスタントなのに、一口すするとその塩味や旨味が全身に染み渡るような気がする。

 おにぎりと味噌汁の朝食が済むと、健斗がペットボトルのお茶をコップに注いで美晴に渡した。

「コーヒーじゃなくてすみません」
「でもこの流れでいったら、断然にお茶だよ。ありがとう」

< 88 / 97 >

この作品をシェア

pagetop