あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜
「飲み物を用意しましょうか?」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

そうは言われても彼はこのあとどうするつもりなのだろう。
差し入れはありがたくいただいた。
お礼にお昼をご馳走した。
そのあとは?
帰るそぶりを見せないがどうするのだろう。

「雪、足はどうだ?」

「家の中を歩く分には不自由しなくなりました」

「そうか。良かったな。でも無理はするなよ。何かして欲しいことあるか? 風呂掃除でも掃除機でもなんでもやってやる」

「まさか。大丈夫ですから……」

「帰ってくれって? まだ帰りたくないんだが俺がここにいてはダメか?」

私は返答に困る。
彼といたい気持ちはあるけれどこれ以上入り込むと去られた時のことを考えるだけで不安になる。

「なら一緒に1本だけ映画を観ないか?」

そう言うとタブレットを出してきた。

「これで一緒に観よう。雪も家からは出られず退屈だろう。そのあとはまた考えたらいいさ」

彼のその誘いに応じ、私はソファに寄りかかった。礼央さんは先ほど食事をした小さなテーブルの上に準備をし始める。

「何がいい? 胎教になくないからハラハラするものはやめたほうがいいと思うからラブコメディでいいか?」

「礼央さんがそれでよければ」

ラブコメディだなんて礼央さんっぽくない。
顔が思わず緩んでしまった。
ハードなものを見そうなのにいいのかな。
でもやっぱり彼には可愛いところがあって見え隠れするたびに惹かれてしまう。

礼央さんは再生すると私の隣に腰掛けてきた。

「お腹は辛くないか? 俺にも寄りかかっていいよ」

「ありがとうございます」

そうは言ったものの礼央さんに寄りかかることなんてできない。
妊娠中で体重がさらに重くなった私に幻滅されたくない。

隣同士で並んで見始め1時間もすると徐々に圧迫されるのか同じ体制でいるのが辛くなってきた。もぞもぞと動くがお腹も大きくなってきて思うようにいかない。
すると礼央さんはソファの上にあったクッションを取るとお尻の下に入れ込んでくれ、身体は自分の方に引き寄せ寄りかからせてくれた。

「ご、ごめんなさい。重いでしょう。どきますから」

そう言って身体を起こそうとするが彼は私の方を抱くとますます寄りかからせる。

「重くない。むしろ食べているか心配になるほどに細いじゃないか。木曜に抱き上げた時も妊婦だと思えない程に軽かったぞ」

確かに元彼の結婚式のあたりでストレスで痩せた。
けれどそのあと礼央さんのアドバイスでだいぶストレスがなくなったせいか戻ってきていたが、つわりでまた痩せた。つわりが治まってようやく体重は普段くらいまで戻ってきたところだ。
けれど礼央さんに抱かれた時からすればかなり増えているので体重の話をされるのは恥ずかしい。
私が何も言えずにいると頭の上から礼央さんが話しかけてきて彼の息が髪の毛にかかる。

「雪は重くなんてない。赤ん坊と一緒に俺が支えてやれる」

今の話ではなくて他の話をしてるの?
体重の話とは別で今後のことを言われている気がしてならない。
肩を抱かれた手に力が入る。
画面に視線は落としているものの私はもう集中できなくなっていた。
すぐ隣にいる礼央さんの体温を感じ、胸の奥が熱くなる。私も抱きついてしまいたい衝動に駆られるが我慢していると礼央さんの右手は私を抱き寄せているが左手で私の手を握ってきた。
絡み合うように密着し、私は緊張して身体が硬くなる。

「雪、緊張してる? ほら力を抜いて俺に身体を預けてよ」

そう言われてもこんなふうに映画もテレビも見たことがない。慣れていないんだもの。
元彼ともこんなにくっついていたことはなかった。

「雪ちゃーん」

私の気持ちをほぐそうと彼は握ってきた手をさらに絡めるが逆効果。ますます私の胸は高鳴り、緊張してしまう。

クスッと小さく笑う声と可愛いなという囁き声が聞こえてきた。
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