あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜

接近

土曜日。
昨日休んだお陰か部屋の中を動いても足の痛みはだいぶ楽になってきた。

お腹の赤ちゃんは元気なようで時折ポコっという胎動を感じるためホッと肩を撫で下ろした。

いつも土曜に買い出しに行き平日は買い物に行かないため今日はスーパーに行かないと食べるものがない。残り物もお昼で食べ終わってしまった。
私は近くのスーパーに行くため準備を始めた。
長く歩くと足が痛みそうなので今日は短時間で最低限のものを買ってこようと決め、小さなショルダーバッグにお財布とスマホ、エコバッグを入れて靴を履いた。
鍵を閉め玄関を出てエレベーターへ向かおうとしたところこちらに向かってくる人がいた。
ポロシャツにハーフパンツを履き、両手にはビニール袋いっぱいに入ったものを持っていた。

「お、良いところに。雪、玄関開けて」

「礼央さん? どうしたんですか」

「差し入れだ。とにかく開けてくれ。思ったより買ったみたいで重くてさ」

たしかに礼央さんの手荷物はものすごい量だ。
私は慌てて玄関の鍵を開け、ドアを開いているように押さえた。

「ふわぁ、重かった!」

どさっと玄関に下ろすが重量感のある音がする。
ひとまず礼央さんを部屋に入れ、麦茶を出すと一気に飲み干した。

「もう1杯飲みますか?」

「頼む」

私はコップを受け取ると麦茶をまた注ぐ。

「ありがとう」

また一気に飲み干すとようやく一息ついたようだ。

「何が良いかわからなくて、雪のことを考えていたらこんなことになったよ」

袋を開けるとキッチンにあるテーブルの上に荷物を広げた。
肉や魚、野菜、卵にパン。牛乳にヨーグルト、チーズ、ゼリーにお菓子まで入っている。
その量に唖然とするが礼央さんは他に欲しいものはあるか、と聞いてきた。
まさか、こんなにあれば1週間以上暮らせそう。

「れ、礼央さん。おいくらですか?」

「差し入れだって言っただろ。それよりお昼は済ませたか?」

「はい。残り物で済ませました」

「そうか、間に合わなかったか」

「礼央さんはまだなんですか?」

「お昼に来ようと思ったのに買い物に手間取って」

「なら私が何か作りましょう。お礼になるかわからないですが」

「雪が作ってくれるのか?」

そう言うと急に目が輝いたように見えた。

「れ、礼央さん。期待しないでください。オムライスでいいですか?」

「大好物だ」

良かった。私は余っていたご飯に玉ねぎやベーコンを混ぜケチャップライスを作った。
隣では昨日作った和風のコンソメスープが残っていたので温め始めた。
体を冷やしてはいけないと美香さんに言われてから内臓を温めるように夏でも温かいスープを飲むようにしていた。
卵でケチャップライスを包むとシンプルなオムライスができた。
スープと一緒にソファの前のテーブルに並べると礼央さんは正座し、手を合わせると「いただきます」と言ってから食べ始めた。
きちんとしていると感心しながら私は先ほど買ってきてもらったものを冷蔵庫や棚に片付け始めた。
程なくして「ごちそうさまでした」と言う声が聞こえてきた。
振り返ると手にはお皿とカップを持っていた。
受け取ろうとするが礼央さんは自分で流しは持っていき洗い始める。

「めちゃくちゃ美味かったよ。スープのクーラーの中で飲むとまたいいもんだな。つい夏場はなかなかスープなんて飲まないもんな」

「体を冷やしてはいけないって先輩に言われたんです。だから……」

「そうか。赤ちゃんのためにちゃんと考えてるんだな。凄いな」

彼は泡のついた手を洗い流すとタオルで拭き、私の頭を撫でた。
礼央さんの大きな手で頭を撫でられるたびに私の胸は高鳴る。
そんな気持ちを彼には気付かれたくない。

私はまた何か飲み物を用意しようとすっと彼から離れた。
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