あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜
今日は元彼と後輩の結婚式。
元彼とは4年付き合ってきて、そろそろ結婚の話が出ていた。
それなのに式場を探し始めたところで後輩の妊娠がわかった。
私とは本気だった、というけれど妊娠した彼女と結婚したいと言われた。
私と本気だったのに彼女とそういう関係を持っていたっていうことは二股をかけていたっていうことだろう。それに妊娠させたから責任を取るというけれど私への責任はどうなるの?私の両親も結婚を喜んでいたのに。
でも赤ちゃんがいる彼女は無敵だ。
もともと私のことを下に見てきた彼女は鼻高々に別れるように言ってきた。
彼女は私と彼が付き合っていたことだって知っていたから確信犯だ。分かっていて二股をかけさせ寝とったのだと分かった。
彼は社内では花形の国際部で働いており、今もさまざまな国を飛び回っている。だから出張だと思って浮気をしていたことに気が付かなかった。
ううん、彼を信用していたからそんなこと考えてもいなかった。

私は彼女に負けたのだ。
常に服装に気を使い、ネイルもこまめに手入れしている彼女。すぐに気がつくフリをして男性に媚びる女。天然っぽく見せているだけの女性たちから見たらあざといと思うけれど男性からすると可愛いタイプ。

反対に私は黒髪でアップにしただけのシンプルでネイルも家で自分でするくらいで飾り気なんて全くない。ぱっちりとした二重だけがポイントだと思っているがアイメイクをすると顔が派手になるためメイクだってナチュラルを心がけている。服装だって仕事に支障のないレベル。少しでも結婚式のためにお金を貯めようと思っていた。

そんなふたりのためになぜ式に出ているのか。
彼女は後輩だから普通に招待状を送りつけてきた。彼は知っているの知らないのかはわからないがどちらにせよ席次表を作るのに気がつかないわけがない。彼女のいうがままなのだろう。
欠席する選択肢もあった。
けれど周囲から負けた惨めな女だと思われたくなかった。
私は余裕だと見せつけるために今日は磨きをかけてここにきた。けれど土壇場になって怖気付いてしまった。いくら着飾ってきても所詮は負けた女なのだと思ってしまったから。
でもここで欠席すればますます惨めになってしまう。
同じ職場で働く限り意地でも行かなければと心を奮い立たせやっとカフェを出ようとした。

そこであの男性と会った。
彼は周囲の目を引くほどの眉目秀麗さで私の目を釘付けにした。160センチの私よりも頭ひとつ大きく180センチはあるだろう高身長にかきあげられた前髪、一目見てわかる仕立てのいいスーツ、足元の靴も磨き上げられ全てが完璧だった。そんな彼がお財布もスマホも忘れるなんてちょっとかわいらしくて私の心が緩んだ。思わず私が払いますよ、と言っていた。

結婚式に行くことで頭がいっぱいで、重たかった気持ちがふっと緩んだことへのお礼かもしれない。深い意味はなく単に人助けと私もすこし気持ちが救われたから言っただけのこと。

律儀にもあとで返すと言われたが580円だけのこと。返ってこなくても仕方ないと思って出したお金なのに必ず返すという彼のきちんとした性格に好感が持てた。結婚式が何時に終わるかわからないし、お断りしたがラウンジで待つと言われてしまった。
私が行かなければ彼はずっと待ち続けるだろう。

でも結婚式のあとに彼とまた会えると思ったらまた少しだけ気持ちが軽くなった。
嫌な気持ちだけで帰らずに済むから。
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