あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜
「雪ちゃん? どういうことよ。あとで聞かせてよ! それよりも真希ちゃんは何なのかしら。全く……」
エントランスで時間をとられそろそろ定時だ。私も美香さんもデスクにつきパソコンを立ち上げて仕事の準備を始めた。
すると真希ちゃんも総務へと上がってきたようだ。
私と美香さんを交互に睨むと自席へ着席した。
朝の話が広まるのは早く、昼休みにはなぜか総務を覗く人の数が増えていた。
きっと礼央さんが私を庇ったからだ。
目立ちたくないのにこんなことになるなんて……。
見かねた美香さんは私を連れ、外にランチに向かった。
「朝はやってくれたわね。真希ちゃんには呆れるわ。私たちを陥れようとしたのね。腹立つわー。でも社長のおかげで助かったわね。あそこで話を大きくされたら今ごろ悠長にランチなんて出来てなかったわよ」
「そうですね。でも何で私たちにそんなことするんでしょうか」
「真希ちゃんは上昇志向が強いのよ。だからあなたから国際部の彼も取ったわ。仕事だってみんなにチヤホヤしてもらいたくて仕方ない。真面目に仕事をこなし、みんなからの信頼の厚い雪ちゃんのことは何かと気になる存在なんでしょうね」
「すべて彼女の思い通り、うまくいってるように思いますけど……」
「そうね。でも雪ちゃんがあの素敵な社長にお姫様抱っこされて颯爽と会社を出た姿はすごい噂だったわ。きっと彼よりもさらに上の素敵な人と雪ちゃんの接触が悔しくなったんじゃない?」
なるほど。
私は真希ちゃんに羨ましがられることは何もない。
見た目だって真希ちゃんの方が数倍可愛い。
だから彼も寝返ってしまうくらいなのに不思議でならない。
「雪ちゃんは十分魅力的なのよ。見た目だけではなく気遣いといい、性格といい本当にいい子よ。大好きな後輩なの。だから社長とのこと教えてちょうだい。どうしてこんなことになってるのよ。なぜ名前で呼ばれてるの?」
急に乗り出すように話し始めてきた美香さん。彼女はきっと他言はしないだろう。
もちろん一夜の関係を持ってしまったことは話せないが、ふたりの結婚式で偶然出会いお金を貸したこと、それが縁でその日一緒に飲んだことを話した。その時には社長だと気が付かず、先日の怪我で社長と再会したと。なので社長とは知らなかったが知り合いであった話をした。
「ふぅーん。それだけじゃなさそうなのに」
「え?」
「社長は雪ちゃんにベタ惚れっぽい」
「まさか、社長ですよ! ただの知人です」
疑いの目を向けているが美香さんは伝票を持つと立ち上がった。
「ま、私は雪ちゃんの味方だから。もちろんこのことは誰にも話さないからね。さ、そろそろ行かないと」
会社へ戻ると好奇の目にうんざりした。
私はまだあまりお腹も目立たないし、いつもゆったりとした服を着ているから誰にも指摘されなかったのにみんなの視線は私のお腹に集まっている。
コソコソと後ろ指をさされながらエレベーターに乗り込むと総務でも私が入るとパタリと話が止む。
私のことを話していたのだろう。
午後仕事が始まるといつものように仕事をこなし始める。
「真希ちゃん、この資料作って」
「え? 私ですか?」
「普通に働かせて欲しいんでしょ?」
この会話を周囲の人も見ていた。
今まで散々人に仕事を押し付けてきたまきちゃんが今朝のことでどう反応するのか気になるのだろう。
「あ……えっと」
「出来ないことはないでしょう。峯岸さんは同じ妊婦さんなのに何も言わずに働いてるわ。私たちみんな妊娠を経験してきているの。だから出来ることとできないことは分かってるわ。これまで出来ると思って回した仕事もすべてやらなかったわよね。それなのに私たちから仕事をまわしてもらえないって社長にも言ったんでしょう」
そうか。
確かに彼女は私たちだけを標的にしたつもりだったかもしれないが総務全体を貶めたことになったんだ。
「妊娠してるから配慮はするつもりよ。今まではかなり配慮してたけれど不満なのよね? 確かに今のままだと給料泥棒だものね。気にもなるわよね。産休まで頑張りましょうね!」
みんなの前でそう宣言され何も言い返せない真希ちゃんはまた涙が溢れてきた。これは本物の涙だろう。
「雪ちゃんは早く妊娠してるって言って欲しかったわ。何かあってからじゃ遅いのよ」
「すみませんでした」
私は立ち上がると頭を下げた。
「頑張りすぎちゃダメよ。休みたい時には言いなさいね。みんな経験者なんだから頼ってちょうだいね」
美香さんのように子育て中の人も多いこの職場。だからこそ私も産休、育休を取ってでも残りたいと思っている。
「ありがとうございます」
また私は頭を下げるとみんなから温かい声がかかりホッとした。
「真希ちゃん、私たちはあなたをいじめたいわけじゃないわ。でも誰かを陥れようとしたりするのは良くないわよ。駆け引きも時と場所を考えなさい。大人にならないと…お母さんになるんでしょ?」
「はい……」
小さな声で返事をした真希ちゃんはいつもより小さく見えた。
「真希ちゃん。今まで多めに見てたけれどこれからはちゃんとしましょう。無理ならいってもいいけれどやれることはやらないとね。自分の居場所は自分で作らないと」
「はい」
周りのおかげで今朝のことは丸く収まったように思えた。
これからは安心して働けるとホッとした。
エントランスで時間をとられそろそろ定時だ。私も美香さんもデスクにつきパソコンを立ち上げて仕事の準備を始めた。
すると真希ちゃんも総務へと上がってきたようだ。
私と美香さんを交互に睨むと自席へ着席した。
朝の話が広まるのは早く、昼休みにはなぜか総務を覗く人の数が増えていた。
きっと礼央さんが私を庇ったからだ。
目立ちたくないのにこんなことになるなんて……。
見かねた美香さんは私を連れ、外にランチに向かった。
「朝はやってくれたわね。真希ちゃんには呆れるわ。私たちを陥れようとしたのね。腹立つわー。でも社長のおかげで助かったわね。あそこで話を大きくされたら今ごろ悠長にランチなんて出来てなかったわよ」
「そうですね。でも何で私たちにそんなことするんでしょうか」
「真希ちゃんは上昇志向が強いのよ。だからあなたから国際部の彼も取ったわ。仕事だってみんなにチヤホヤしてもらいたくて仕方ない。真面目に仕事をこなし、みんなからの信頼の厚い雪ちゃんのことは何かと気になる存在なんでしょうね」
「すべて彼女の思い通り、うまくいってるように思いますけど……」
「そうね。でも雪ちゃんがあの素敵な社長にお姫様抱っこされて颯爽と会社を出た姿はすごい噂だったわ。きっと彼よりもさらに上の素敵な人と雪ちゃんの接触が悔しくなったんじゃない?」
なるほど。
私は真希ちゃんに羨ましがられることは何もない。
見た目だって真希ちゃんの方が数倍可愛い。
だから彼も寝返ってしまうくらいなのに不思議でならない。
「雪ちゃんは十分魅力的なのよ。見た目だけではなく気遣いといい、性格といい本当にいい子よ。大好きな後輩なの。だから社長とのこと教えてちょうだい。どうしてこんなことになってるのよ。なぜ名前で呼ばれてるの?」
急に乗り出すように話し始めてきた美香さん。彼女はきっと他言はしないだろう。
もちろん一夜の関係を持ってしまったことは話せないが、ふたりの結婚式で偶然出会いお金を貸したこと、それが縁でその日一緒に飲んだことを話した。その時には社長だと気が付かず、先日の怪我で社長と再会したと。なので社長とは知らなかったが知り合いであった話をした。
「ふぅーん。それだけじゃなさそうなのに」
「え?」
「社長は雪ちゃんにベタ惚れっぽい」
「まさか、社長ですよ! ただの知人です」
疑いの目を向けているが美香さんは伝票を持つと立ち上がった。
「ま、私は雪ちゃんの味方だから。もちろんこのことは誰にも話さないからね。さ、そろそろ行かないと」
会社へ戻ると好奇の目にうんざりした。
私はまだあまりお腹も目立たないし、いつもゆったりとした服を着ているから誰にも指摘されなかったのにみんなの視線は私のお腹に集まっている。
コソコソと後ろ指をさされながらエレベーターに乗り込むと総務でも私が入るとパタリと話が止む。
私のことを話していたのだろう。
午後仕事が始まるといつものように仕事をこなし始める。
「真希ちゃん、この資料作って」
「え? 私ですか?」
「普通に働かせて欲しいんでしょ?」
この会話を周囲の人も見ていた。
今まで散々人に仕事を押し付けてきたまきちゃんが今朝のことでどう反応するのか気になるのだろう。
「あ……えっと」
「出来ないことはないでしょう。峯岸さんは同じ妊婦さんなのに何も言わずに働いてるわ。私たちみんな妊娠を経験してきているの。だから出来ることとできないことは分かってるわ。これまで出来ると思って回した仕事もすべてやらなかったわよね。それなのに私たちから仕事をまわしてもらえないって社長にも言ったんでしょう」
そうか。
確かに彼女は私たちだけを標的にしたつもりだったかもしれないが総務全体を貶めたことになったんだ。
「妊娠してるから配慮はするつもりよ。今まではかなり配慮してたけれど不満なのよね? 確かに今のままだと給料泥棒だものね。気にもなるわよね。産休まで頑張りましょうね!」
みんなの前でそう宣言され何も言い返せない真希ちゃんはまた涙が溢れてきた。これは本物の涙だろう。
「雪ちゃんは早く妊娠してるって言って欲しかったわ。何かあってからじゃ遅いのよ」
「すみませんでした」
私は立ち上がると頭を下げた。
「頑張りすぎちゃダメよ。休みたい時には言いなさいね。みんな経験者なんだから頼ってちょうだいね」
美香さんのように子育て中の人も多いこの職場。だからこそ私も産休、育休を取ってでも残りたいと思っている。
「ありがとうございます」
また私は頭を下げるとみんなから温かい声がかかりホッとした。
「真希ちゃん、私たちはあなたをいじめたいわけじゃないわ。でも誰かを陥れようとしたりするのは良くないわよ。駆け引きも時と場所を考えなさい。大人にならないと…お母さんになるんでしょ?」
「はい……」
小さな声で返事をした真希ちゃんはいつもより小さく見えた。
「真希ちゃん。今まで多めに見てたけれどこれからはちゃんとしましょう。無理ならいってもいいけれどやれることはやらないとね。自分の居場所は自分で作らないと」
「はい」
周りのおかげで今朝のことは丸く収まったように思えた。
これからは安心して働けるとホッとした。