最後の世界が君でよかった
向き合わなければいけない事実
「翔太には絶対に楓にだけは伝えないでほし
 いと頼まれてたんだが、今から楓に伝える」

「はい」

「翔太が中3の時に引っ越した理由は父親の
 転勤、これは事実
 そして翔太が2週間前に引っ越してきた理
 由も父親の転勤、これは嘘なんだ」

「え?
 じゃあ、なんで?」

「翔太は向こうでもサッカーを続けていた
 そして、どんどん痩せていった
 俺たちは翔太はめちゃめちゃ練習していたか
 らだと思って不思議には思わなかった
 ある日のサッカーの試合があったんだ
 その日も翔太はスタメンで出場してたんだ
 だけど、開始30分ぐらいから翔太の息が切
 れてきたんだ
 いつもならありえないはずだから、不思議に
 思うというよりどうしたんだ?って心配にな
 った
 だけど、翔太なら大丈夫だろって思った
 今思えばこの油断が悪かったんだよな
 それから10分も経たないうちにいきなり翔
 太が頭を抱えながら倒れたんだ
 そして翔太は救急車で運ばれた
 俺たちは救急車には乗れなかったけど、会場
 まで車で来てたからそのまま車に乗り込んで
 急いで病院に向かった
 それで翔太が検査を受けるからって俺たちは
 病院で待ってた
 1時間ぐらいだったかな
 それぐらいすると医者に呼ばれた
 翔太はステージ4の末期癌だって言われたん
 だ」

嘘だ、冗談でしょ…?

耳を塞ぎたい、叫びたい、現実逃避したい。

だけど、最初に約束した通りどんな事実であろうと最後まで聞き遂げなきゃと思い、隼翔くんの言葉に耳を傾ける。

「それで、余命宣告もされた」

余命宣告…?

あんなに元気だったのに…?

だから、私がいつでも会えるって言ったとき、表情が曇ったの?

ほんとに悪いことしちゃったじゃん。

翔太、ごめん。

「翔太はあと1ヶ月しか生きられないって言
 われたんだ
 頑張って治療をしても3ヶ月だって」

嘘でしょ…?

あと1ヶ月?

もっと一緒にいたいよ。

翔太のことが好きなのに。

この思いを伝える前に翔太はいなくなっちゃうの?

そんなの嫌だよ…

「それで、翔太に伝えたんだ
 治療を続けるか、もう終わりにするか
 そしたら翔太は全く迷わずに終わりにするっ
 て言ったんだ
 苦しい思いをしながら最後の3ヶ月を過ごす
 なら、好きな人と1ヶ月だけでいいからそば
 にいたい
 楓と最後の1ヶ月を一緒に過ごしたってきっ
 ぱりと言ったんだ」

「なんで、なんでそれなら私に教えてくれな
 かったの?
 教えてくれたら、もっと翔太のために何か
 できたのに」

「ごめんな、楓
 翔太に言うなって言われてたんだ」

「なんで?」

「楓には今までの翔太のままでいたかったん
 だと思う
 末期癌だっていう偏見なしで接して欲しか
 ったんだと思う
 1番な理由は、楓を悲しませたくなかった
 んだと思う」

なんでよ。

なんで、いつも1人で決めて。

私の意見なんて全く聞いてくれなかった。

悲しまないとは言えないよ。

だけど、隠されてた方が悲しいよ。

気づいたら目から涙が溢れてた。

プルルル

突然、隼翔くんのスマホが鳴った

「はい、もしもし」

相手がなんと言っているのかはわからなかった。

でも、隼翔くんからただならぬ空気を感じた。

胸騒ぎがした。

隼翔くんは電話を切るとすぐに

「翔太が危篤状態らしい」

えっ?

「だから、一緒に来てほしい
 兄貴として、翔太にしてやれる最後のこと
 かもしれない」

「もちろん、行きます」

行かないと言う選択肢はなかった。

翔太に会いたい。

その思いだけでひたすら走り続けた。
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