先輩からの卒業




「じゃあ、もうそんな話はしないで下さい。私には先輩だけなんですから。わかりましたか?」


「はい」

先輩はそう言うとわかりやすくシュンとする。

その姿が子犬のようでなんだか可愛らしい。


「あ、てかさ……。もう、そろそろ卒業しない?」


先輩はピタリと足を止めると不思議なことを言い出した。

私達は今、卒業式を終えて学校からの帰り道を歩いてる最中だ。


「卒業ならさっきしましたけど」

右手に持っていた卒業証書を先輩に見えるように掲げる。

そんなことしなくても、先輩は全く同じものを持っているのだけれども。


「いや、まーそうなんだけど。そうじゃなくて……。その先輩って呼び方をそろそろ卒業してもいいんじゃないかなと思って」


「でも、先輩は先輩ですし」


「それこの前も言ってたな。でも、今は彼氏じゃん?」


先輩から発せられる彼氏という響きがなんだかくすぐったい。

確かに、先輩の言うとおり先輩呼びを卒業するのもありなのかもしれない。

呼び方を変えるなら今がチャンスなのかも。

三宅くん……はクラスの女の子達と同じだし、少しよそよそしいかな?

そうなると……。


「じゃあ……巧くん?」

初めて呼ぶ先輩の名前に唇が微かに震える。

そんな私の緊張をよそに隣では先輩が目を細めて笑った。



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