ABYSS〜First Love〜
久しぶりに見たリオは写真よりずっとカッコ良くなっていた。

サーフィンも上手くなってたように思えて
ただ細かった少年みたいな身体も
鍛えられて一回り大きくなった気がした。

リオはもう誰かと恋を始めてるんだろうか?

あの身体を誰かに触れさせたのだろうか?

そんなことを考えて落ち着かなくなる。

リオに対する嫉妬でどうにかなりそうだった。

「え?ユキナリ?」

帰りの駅で声をかけられた。

ミカさんだった。

「どうしたの?
東京戻ったんだよねぇ?

どうしてまたここに?

もしかしてここまで波乗りに来たの?」

ん?ボードは?」

ミカさんの質問攻めにあって
オレは言葉に詰まった。

言い訳したところで上手く話せる自信もなかった。

「なんか海…見たくなってここまで来ちゃいました。

ここの海時々思い出すんですよねえ。」

思い出すのは海じゃなくてリオだった。

「いいとこでしょ?
新幹線で来たの?
荷物は?」

「いや、ちょっと時間できて…朝新幹線乗って来て…もう帰ります。」

「え?まさか日帰りなの?
こんな遠くまで来たのに…」

何を言ってもミカさんは質問で返してくる。

とにかく早くこの場を去りたかった。

「どうしてもここの綺麗な海が見たくて…
見にきただけでもう時間なくて…」

「もしかしてなんかあった?」

「いや、何もないです。
海好きなんで。
すいません、じゃあまた来ます!」

そりゃ不審に思うよな。

そう思ったがあまり話してボロを出さないうちに
ミカさんとは別れた。

帰りの電車は落ち着きがなく
ミカさんがリオにオレの事を話したらどうしようかと思った。

その夜リオの夢を見た。

夢の中のリオは冷たかった。

そしてアキラさんの腕に抱かれてた。

オレは飛び起きて夢でよかったと思った。

嫉妬でどうにかなりそうで
リオに逢いたいと心から思った。

しかしもう全てが手遅れだ。

大学へ行くと相変わらず何人もの女の子に声をかけられた。

同期にコンパに誘われて行く気はなかったが
もしかしたら気が紛れると思って参加してみた。

1人の女の子が2人きりになろうと誘ってきた。

「ゴメン、オレそういうのはちょっと…
好きなヤツがいて…。」

世の中のほとんどの人がオレの好きな相手は女だと信じてる。

「ユキナリくんて案外一途なんだ。
私さ、ユキナリくんなら2番でもいいよ。
そんなにモテるのに浮気とかしたことないの?」

女の子はオレの腕に手を回そうとするが
オレはそれを遮った。

正直、気持ち悪く感じた。

オレはリオしか欲しくなくて
リオの体温しか知らなくて
他の誰とも触れ合いたくもないし、
触れ合う気もない。

結婚する予定のサチですら手を繋ぐことも難しかった。

「やだ、潔癖症?」

女の子は呆れてオレのそばから離れていった。

「お前さ、なんで来たの?
彼女とか作らねーの?

彼女じゃなくても適当に遊んだりもしたくないわけ?」

呆れた主催者が声をかけてきた。

オレは何も言わずに黙って酒を飲んだ。

「まぁユキナリがいるだけで
女の子集まるからいいけどさ。」

客寄せパンダでいい。

何をしたってどこにいたってオレの目にはリオしか映らないことがわかった。

酔った勢いでリオに電話した。

声だけでも聞きたくて我慢できなかった。

「え?ユキナリ?どしたの?」

リオの声を聞いた瞬間、
気持ちが溢れてしまいそうだった。

「リオ…元気か?
雑誌見たよ。すげーカッコよかった。」

リオはしばらく黙ってた。

「何か言ってくれよ。」

オレがそう言うとリオは願っている通りの言葉を返してくれた。

「ユキナリ…好きだよ。

ずっと…やっぱ忘れらんない。」

オレはやっぱり好きとは答えず

「うん。ありがとう。」

と返しただけだった。

「ユキナリ…好きだ…好きだって言ってんの!
何で?何でオレのこと好きだって言ってくれないんだよ。

ねぇ…好きだってば…」

途切れ途切れの告白をしながら
リオの息遣いが荒くなる。

コイツはまだオレにベタ惚れなんだと思って安心する。

「リオ…じゃあキスしに来てよ。」

オレはアイツの声に応えたかった。

「いいよ…お前の身体中にキスしてやる…」

オレの頭の中のリオがオレの服を裂き
あの熱い唇を押し付ける。

リオもきっと同じ気持ちだと思った。

「リオ…マジで来てよ。」

「待っててよ…すぐ逢いに行くから…

覚悟…しといて…」

まるで全力で走ってるような息遣いがオレの耳を刺激した。

走り切るとリオはそこで電話を切った。

もちろんリオは来なかった。

オレの住所も知らないし、来るはずはなかった。

だけどあれからずっとオレの身体はリオの熱にうなされてる。

こんなに人を恋しいと思ったのは初めてだ。

リオに触れてほしくて
オレはまたあの海に行って今度はリオにちゃんと逢おうと思った。

しかし思ったより忙しく海には結局行けなかった。

そして春になり、
オレはまた別の衝撃を受ける。

リオは知らないうちに上京していた。

そしてオレの手の届かないところへ向かって歩いていた。

















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