ABYSS〜First Love〜
「これってリオだよね?

海の家にいた高校生?」

サチが持ってきた雑誌で再び大きくなったリオを見た。

「高校生じゃなくて大学生だよ。」

「そっか。

この子化けたよねぇ。

なんかパッとしなかったのに。」

そんなことない。

リオはあの時から魅力的だった。

少年と青年の中間みたいで
危なっかしくて大胆でそして不思議な色気があった。

そのうちリオはテレビに出るようになった。

大きな大会で優勝し、一躍時の人になった。

その容姿で女の子のファッション誌まで出るようになって
アスリートのアイドル的存在となっていったが
サーフィンの方はそれからしばらくあまりいい結果を出すことが出来なかった。

そんなある日、オレはネットでリオの事故を知った。

海外の大会で大怪我をしたと報道されて
居ても立っても居られなくなった。

オレは大学を休んでリオのいるハワイに飛んだ。

サチにも内緒で入っていた仕事も放り出した。

リオが入院している病院を突き止めて
リオに逢いにいった。

日本からの取材も来ていたが
一時期のような勢いはなく扱いは大して大きくなかった。

リオのマネージャーみたいな人にリオの様子を聞いた。

「大丈夫です。
ちょっと頭を打ったんで心配してましたが
大事には至らないと。

あの…リオとはどういう?」

「あー、一昨年リオの地元で働いてて…一緒にサーフィンした仲間です。

偶然ハワイに来てて、リオが怪我したって知って…。」

「そうなんですか。

リオは今、眠ってます。

もう起きると思うんですが…

起きたら連絡しましょうか?」

「え、いや。
あの…ホントちょっと寄っただけなんで。

また来ます。」

オレは結局リオには会えずにホテルに帰った。

着信履歴がたくさん残っている。

ほとんどがサチと会社とオヤジからだった。

みんな急にオレが居なくなって心配してるんだろう。

このまま帰りたくなかった。

リオと逢ってこのままずっとここで波乗りでもして過ごせたら最高だと思った。

そんな事は夢だってわかってる。

オレの心の中の妄想はいつだって現実にはならない。

次の日の午後、リオのいる病院に再び行ってみた。

顔だけでも見たかった。

リオは元気になって取材を受けてた。

オレが逢いに行けるような雰囲気じゃなかった。

遠くから見てるとリオと目が合った。

リオは俺に気付いてその視線をずっと逸らさずに取材を受けてる。

オレはその場にいられなくなって席を外した。

後ろからリオが追いかけてきた。

「ユキナリ!

来てくれたんだ。

昨日も来てくれただろ?」

「お前、取材は?」

「あぁ、大丈夫。もうほとんど終わってた。」

目の前にいるリオはもうオレの知ってるリオじゃなかった。

オーラがあって光り輝いてた。

オレなんかが気軽に話しかけていい相手じゃなくなってた。

オレの存在はアイツの輝かしい人生に相応しくないと思った。

「もう帰らなきゃ。」

オレはもう自分の場所に帰ろうと思った。

リオは帰ろうとするオレを抱きしめてきた。

「行かないでよ。もう少しいいだろ?

時間作るから少しだけ待って。」

リオの唇がオレの首に軽く触れた。

正直ヤバいと思った。

このままここに居たらオレはリオのために全てを捨てるだろう。

「悪い、もう時間がない。」

逃げようとする俺にリオが言った。

「ユキナリ!これで最後にする。
逃げたらもう追わない。」

足が止まってしまった。

振り向くとリオはオレを射抜くような眼で真っ直ぐ見ていた。

「リオ…お前が元気ならいい。
オレのことはもう忘れてくれ。」

「ならどうして逢いにきたんだよ?
こんな遠くまでどうして…」

リオの胸に飛び込みたかった。

アイツを思い切り抱きしめてやりたかった。

そうしようと思った時、マネージャーが呼びにきた。

「リオ!
こんなところに居たのか?
検査の時間だぞ。」

オレはまたホントの気持ちを言えないままリオと離れ離れになった。

その夜の便でオレは日本へ飛び立った。

帰国するとリオからメッセージが届いていた。

「バイバイ、ユキナリ。元気でな。」

オレは駐車場に停めてあった車の中で泣いた。

涙が枯れるほど泣き、
息ができなくなるほど苦しかった。

それでもオレたちの立場を考えたら
これでいいと思った。






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