ABYSS〜First Love〜
とりあえずサチが泣き止むのを待ってた。

少し落ち着くとサチはまた
「リオだけは許さない。」
と言った。

「何か困ってるの?」

「別に困ってない。」

だけどサチはホントに幸せそうじゃなかった。

「サッちゃん、どうして今更リオの事務所に行ったの?

前からリオとのこと気付いてたんじゃないの?」

急にリオの事務所に乗り込むなんて
サチに何か心境の変化があったとしか思えなかった。

「ただリオの広告を見たの。

幸せそうな顔で笑ってるあの子の広告見てたら堪らなくなった。

あの子が居なかったら私はあなたと幸せになってたはずだった。」

幸せになっては居なかっただろう。

オレたちは政略結婚でオレはサチになんの興味もなかったから。

今まで愛したのはリオだけだった。

リオに会わなければオレは誰も好きにならないまま人生を終えてたかもしれない。

「気持ちはわかるけど…オレはサッちゃんが思ってるような男じゃないよ。

もしリオがいなかったとしてサッちゃんと結婚してたら
サッちゃんはもっと不幸になってたかもしれない。」

「今より不幸になることなんてあり得ない。」

「今サッちゃんはそんなに不幸なの?」

サチは大きな瞳から大粒の涙をポロポロ流していた。

「お願い。助けて。

私を助けてくれたらリオのことは許してあげるから。」

「何が起きてるの?」

サチは時計を見て急に落ち着かなくなった。

「帰らなきゃ…」

オレはサチを引き留めた。

「待って。

どうしたらいいか教えて。」


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