雨降る日のキセキ
あのまま消えていなくなった人を知っている。


血まみれのまま動かなくなった。


大雨で流れていく真っ赤な液体。


夜だったのに、トラックのライトに照らされて鮮血がハッキリと見えた。


「翔吾…っ」


雨に打たれてもピクリとも動かない翔吾は、まるっきり朝陽くんと重なって見えた。


「千紘!!落ち着けって!」


「落ち着けるわけないでしょ!?翔吾があのまま死んじゃったらどうするの…!?朝陽くんはあのまま二度と帰ってこなかった…っ!!!翔吾も…っっ、翔吾も帰ってこなかったらどうするの…!?」


怖い…っ。


大切な人をこれ以上失うのが怖くて怖くてたまらないよ…っ。


「……死ぬなんて…んな縁起でもない言葉、二度と使うな」


低く冷たい声がハッキリと聞こえた。


その凍りつくような口調で、ハッと意識が現実に引き戻される。


「……ごめん…」


「…いや…俺こそ…。とりあえず、ここは監督に任せて俺たちは部室に戻るぞ」




ピーポーピーポー……


サイレンの音が虚しく響いて遠くなっていく。


私たちは何もできず、ただただ鉛のように重い空気の部室にいるしかなかった―…。
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