呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
アーサー様は、夜更け過ぎると何故か私の部屋のベッドで寝ている。

自分の部屋で寝て欲しい。



まだ最後まで手を出す気はないようだけど、不安と恐怖しかない。

部屋の窓は、ひと一人出られない隙間しか開かない。



そして、窓の外を見て思う。

ここは、以前のアーサー様の邸じゃない。

庭には大量の警備に、以前の邸とは庭の様相が違う。



一体ここはどこなのだろう。



あの大量の警備は旦那様を警戒しているのだろうか?

以前の邸じゃなかったら、旦那様はここがわからないかもしれない。

廊下にも警備が付き、部屋には鍵が掛けられて出られない。

本当にアーサー様は私をこの部屋から出す気はないのだ。



この国は既婚者じゃないと愛妾には出来ない。アーサー様が既婚者じゃないと愛妾も持てず、ただの恋人になる。そして、アーサー様が既婚者になれば恋人が持てないのだ。その上、私が既婚者じゃなかったら、愛妾にはなれなかった。

愛妾の立場の者の条件も既婚者なのだ。

それは、アーサー様である殿下との結婚を防ぐためだ。

殿下や王族が愛妾と結婚することを防ぐ為に昔の人が決めたのだろう。

妃との離縁を防ぐ為にきっと決めているのだ。



離れたところから、ベッドの上で眠るアーサー様を見ると、一体どういう神経をしているのか疑う。

人を勝手に連れて来て、私の部屋らしいこのベッドでよく熟睡出来るな、と思わずにはいられない。



「白ちゃん、一体この人はどうしたいのかしら? 」



白ちゃんもわからず、またぐるぐる回る。



部屋を探しても脱出を出来るところはなく、ベッドから離れたソファーの手置きに凭れるように座る。

そして、朝が近くなると、やっとアーサー様が起床した。



「おはよう、リーファ」



挨拶すら、したくなくてツンとそっぽを向く。

しかし、アーサー様には通じない。



「怒った顔は初めて見たな」



嬉しそうにうっとりとして、そう言った。



「少し早いが朝食を摂ろう。俺は仕事に行かねばならん」

「お好きにして下さい」



愛想なくそう言うと、アーサー様は廊下の使用人にすぐに朝食を準備させた。



「リーファ、着替えの支度をしてくれ」

「嫌ですね」



ツンとしたままだと、またアーサー様が近付いてくる。それに合わせて私も後ろに下がる。



「着替えぐらい手伝ってくれないのか?」

「従者に言って下さい」



そして、それを見ていた白ちゃんがアーサー様に突撃した。

白ちゃんはアーサー様の身体を突き抜ける。

かといって、実体のない白ちゃんにはアーサー様止めることは出来ないが、急にアーサー様が驚いた。



「うわっ……!? なんだ? 今のは……急に寒気が……」



アーサー様に白ちゃんは見えていないらしい。

白ちゃんは弱いお化けだと旦那様が言っていたから、もしかしたら、ヘルハウスじゃなかったら、見えないのかもしれない。



そのタイミングでアーサー様のお召し物が到着した。

手伝えと言っていたが、寒気に驚いたのか、私に断られたからか、首をかしげながら、アーサー様は衣装部屋に移動し、着替えていた。



しかし、諦めない。本当にしつこい!



着替えを済ますと、私にネクタイだけでも止めてくれ、と迫る。

そして、女官らしい方が厳しい顔で私に言った。本当につり目の怖い顔の女官だ……。



「アーサー様のご要望です。リーファ様、お断りすることは許しません」

「私は好きで来たわけではありません。無理矢理連れてこられたのですよ!」

「リーファ様、どうぞ」



私の話なんか聞かない。

皆アーサー様に忠実だった。

端から見たら、裏切りのない部下達なのだろうが…。



周りを囲まれている気分になり、四面楚歌だった。

嫌々アーサー様のネクタイを結ぶが、殿方のネクタイなんてしたことがない。

これが旦那様なら、どれだけ嬉しかっただろう。

アーサー様は、お構い無しにリーファと呼び私のたどたどしい手を取る。



「触らないで下さい! 私に触っていいのは旦那様だけです!」



手を振り払い、ネクタイはなんだか歪になってしまっている。

下手くそだが、どうでもいい。



「ガイウスのことは禁止だと言ったはずだ」

「知りません」



そのまま、無理矢理腕を捕まれ、朝食の並べられたテーブルに座らされる。

旦那様と言ったからか、アーサー様は不機嫌そのものだ。



「座れ。朝食を始める」



無言で、朝食が始まる。

周りは給仕の為か、使用人達が立ち、なんだか嫌だ。



アーサー様と朝食なんて嫌だけど、ここから脱出する為には、空腹で倒れる訳にはいかない。

以前は帰る家もなく嘆いていたけど、今は違う。私にはあのヘルハウスという場所があるのだ。

旦那様のいるヘルハウスに帰らなくてはと、勢いよくハムを頬張った。





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