呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
真夜中も過ぎた時間に、馬の鳴き声がした。

私と旦那様は、二人でベッドにいるから誰か来たとしか思えない。

まさか、こんな街はずれの釣り小屋に追手がもう来たのだろうか。

不安が身体を走り、旦那様の手を握った。

でも、旦那様は焦る様子もない。



「旦那様、馬の鳴き声がしました。どなたか来られたのでは?」

「こんな時間に、ここにくるのは、ロウだろ」

「えぇっ!?」



そ、それは不味いのでは!?

こんな姿の私と旦那様を見たら、ロウさんにまたクラッカーを鳴らされます!

こんな逃亡時でも、ロウさんはやる人ですよ!



旦那様はもう眠いのか、ウトウトしながら起きる気配はない。



「旦那様! 起きてください! ロウさんが来ますよ!」



早く起きないと、ロウさんが来る! と焦り、裸の旦那様を揺さぶるが、旦那様は気にもしない。

そして、ガチャリと釣り小屋の木の扉が開いた。

入ってきたのは、黒いマントを頭まで被ったロウさんで間違いなかった。

ロウさんは、開けるなりベッドにいる私と旦那様を見て、立ち止まったかと思うといきなり、早足で近づいた。

そして、一瞬で懐に手を突っ込んだかと思うと、やはりきた。



スパパパーッン!!



「おめでとうございます!! とうとうですか! そして、何故私がいない時にするのですか?」



クラッカーを三つも一気に鳴らされて、青ざめるようになってしまう。

しかも何故って……ロウさんに今から夫婦の営みをしますとは、申告出来ない!



「ロウ……うるさい」



旦那様は、眠そうに睨んだ。しかし、やはり動揺はない。



「おや、これは失礼しました。エレガントな執事生活がこれから始まると思うと、年甲斐もなく、はしゃいでしまいました」

「と、とりあえず着替えますので、一度出てもらえますか? 旦那様は起きてください」



旦那様は気怠そうに起き上がり、シーツで身体を隠している私を後ろからもたれるように抱きしめてくる。そんな私は恥ずかしさを隠すので精一杯だった。



「ロウ、少し外で待ってろ。リーファが着替えるから……」

「はい、畏まりました」



ロウさんは嬉しそうに、外にでた。 どんなエレガントな生活を求めているのか。

旦那様はまだ気怠そうだった。







◇◇◇







お待たせしました。と言ってロウさんを再度小屋に呼び戻し三人で座る。

旦那様は座っている間も隣に寄り添うように座り、ロウさんはそれを見て満足そうだった。

そんな中、ロウさんが神妙に話だす。



「ガイウス様……少々旗色が変わってきました。正式にクローリー家に仕事がきそうです」

「まさか……王妃様ですか?」

「ご存知で?」

「ロウ、リーファは王妃の亡霊が見えていたらしい。多分リーファには魔力があるんだ」

「そうですか……城は少し騒いでいます。陛下はもう納めることは難しいかと……アーサー様も違和感がありまして……」



やっぱりアーサー様は何かおかしいんだ。

最後に見たあの顔は、まるで助けを求めるような悲しい顔だった。

それなのに、私から離れると上の空になって……。



「どうおかしいんだ?」

「……アーサー様に、中々お会い出来ませんでよくわかりませんが……ニール様がアーサー様と会えなくなってしまったのです。こんな状態なのにアーサー様が、城の部屋に籠るなんて違和感しかありません」

「どういうことだ?」

「ニール様がアーサー様に会おうとすると、倒れてしまうのです。アーサー様に何か憑りついているみたいですね。黒いものが纏わりついているようで……亡き王妃の呪いもそう他言できずにアーサー様のものが王妃だと断定していいものか……」



あのどす黒いモヤモヤは、明らかにニール殿下に向かっていた。怒りのようなものをニール殿下に向けていたのだ。



「アーサー様の黒いモヤモヤは見たことがあります。あれはニール殿下に怒っていました。おそらく王妃様で間違いないかと……ニール殿下から、陛下の呪いも聞きましたし……でも、アーサー様がおかしいのはあのどす黒いモヤモヤのせいでしょうか?」





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