閉園間際の恋人たち




純度しかないまっすぐな賞賛に、明莉もつられて笑顔になる。
それは、見ているこちらの気分も安らげるような場面(シーン)だった。
俺は時生がセッティングしてくれたこの会で明莉とのことをハッキリさせ、明莉本人にも区切りを引かせるつもりだったが、それを叶えてくれたのは大和君だったわけだ。
この小さなカウンセラーはどこまでも素直で、いつもストレートで、真正面から見つめてくる。
だから受ける俺達大人側にも響くものがあるのだろうけど……
そんな風に大和君が育ってるのは、母親代わりの琴子さんの影響も大きいのだろうな。

ふと琴子さんを見やると、視線が交わった。
何を言うまでもなく、二人で笑い合うと、それだけで幸せを感じた。
すると目ざとい和倉さんが「おや、二人でアイコンタクトかい?」と冷やかしてくる。

「そんなんじゃありませんよ」

琴子さんは即答するけれど、照れてるだけだとわかっててもそれはそれで面白くない。

「いけませんか?一応、恋人同士なんで」

俺はちょっとムキになって、思わずそう言ってしまった。

「あれ、なんだ、そういうことになってたんだ?」

和倉さんは俺ではなく琴子さんに問いかけるから、恥ずかしがりな彼女は顔を赤くさせた。
しまった、こんなかわいい顔、俺以外の誰にも見せたくなかったのに。
俺はささやかに悔やんだけれど、琴子さんが掠めるように明莉に視線を流したのに気が付いた。
琴子さんにしてみれば、何かと俺のことで突っかかってきた明莉にどういう態度をとるべきか迷ったのだろう。
俺だったらそんな相手気にもとめないが、優しい彼女は無視するわけにはいかないらしい。
だが当の明莉は和倉さんに楽し気に同調したのだった。

「そうみたいですよ?本当、いつの間にやらって感じですよね」

無理やりでも、空元気というわけでもなさそうな明莉は、ぐいっとテーブルに身を乗り出してきた。


「ねえ、蓮。蓮が行かないなら、私が蓮の代わりにブロードウェイに立つ夢を叶えてあげてもいいわよ?」

いつもの勝気な明莉が戻ってきた。
俺はこいつのこういう自信たっぷりな物言いは、わりと好きだと思う。
それに、もし本気で海外に出るなら、きっとそういう気質は大きな武器になるだろう。
俺は後押しするつもりで言ってやった。

「ああ、ぜひ頼むよ」

すると大和君が「わあ…」と口を大きく開けて興奮を弾けさせた。

「やっぱりアカリお姉ちゃん、ブロードウェイに行くの?」
「そうね……もし私がブロードウェイに行ったら、大和君も来てくれる?」
「うん!あのね、ブロードウェイがあるニューヨークっていうところは、外国だけど飛行機にのったら寝てるあいだに着いちゃうんだって!だから、日本と遠くないんだよ」

大和君が披露したのは、最近の電話で俺が教えた情報だ。
明莉や時生は「よく知ってるね」と口々に大和君に感心して、大和君はそれを喜んだ。
そうして、一触即発にも近かった飲み会は、和やかな食事会へと姿を変えたのである。











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